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SNSの誹謗中傷を減らすには、「法律の厳罰化」だけでは不十分!有効な対策を心理面から探る

2024年08月14日 09:00

SNSの誹謗中傷を減らすには、「法律の厳罰化」だけでは不十分!有効な対策を心理面から探る
前編では、アスリートへの誹謗中傷が起きる要因について考えました。いくつかある中でも、以下の3つが特に大きいようです。 「…

前編では、アスリートへの誹謗中傷が起きる要因について考えました。いくつかある中でも、以下の3つが特に大きいようです。

  • 「この選手はみんなに迷惑を掛けた」と選手を戦犯扱いする発想 
  • 「みんなで応援していたのに裏切られた」と被害者意識を持つ発想 
  • 「ミスをした者は罰しても良い」という歪んだ正義感からの発想

「相手を思いやり、和を重んじる日本人」…のはずが、なぜ誹謗中傷が相次ぐのか?その心理と対処法

後編では、対策について考えていきます。 

法律の厳罰化は予防策としては疑問が残る

まず、法律の厳罰化の声が上がるのではないでしょうか。言葉は、鋭利な刃物にもなります。傷つけたことに対して、厳しく処罰するのは必要なことです。

ただ、被害を与えた後の対策としては有効ですが、予防の効果としては疑問符が付きます。

なぜならば、被害者意識や歪んだ正義感からの場合、加害者意識が薄いからです。検挙された後に犯した罪の重さに気づくパターンで、飲酒運転が厳罰化されても件数がゼロにならないのと状況は似ています。 

もちろん、法的手続きを否定しているのではありません。もちろん毅然とした態度で訴えることも大事です。 

誹謗中傷者と同じ土俵には上がらない 

たとえば、X(旧Twitter)の誹謗中傷のコメントに対して、あなたが反論をしたとしましょう。かえって「火に油を注ぐ」ことが予想できます。そのため、私は「同じ土俵には上がらない方が良い」とお伝えしています。

これは、「泣き寝入りをしなさい」という意味ではありません。そうではなく、あなたが一段高い土俵に上がるということです。 それは、その場の状況に応じて、完璧ではなく最善の手段を講じる「最善主義」を目指すことです。

前回、誹謗中傷を含め、いじめをする側は白黒主義や完璧主義者が多いことを指摘しました。人生のすべてが自分の思い通りにいくことはありません。ミスも起こります。完璧主義の場合、ミスは叱責の対象となります。しかし、最善主義の場合、ミスは受け止めるものになります。 

コメントの受け答えなどで「神対応」と呼ばれるケースがあります。この人たちは、自分のミスや他者のミスも受け止める度量の広さを示します。

ここで大事なことは、受け入れることと、受け止めることを区別することです。 

「受け止める」と「受け入れる」は異なる

この2つの違いについて。

  • 「受け止める」とは、認識すること
  • 「受け入れる」とは、認めること

誹謗中傷の相手を受け入れることは、理想としてはOKですが、現実的には難しいのではないでしょうか。また、ネットから距離を置くという方法もあります。

ただ、どうしても雑音は耳に入ってきてしまいます。そこで、あくまでも受け止めるための具体的な方法をお伝えします。 

(1)事実と解釈を分ける 

書き込みの多くは、書き手の推測が含まれています。「あのとき、〇〇していれば」「なんで、△△ではないんだ?」「お前なんか□□だ」など、どれも事実ではありません。事実とは、本人が行った出来事のみです。

この観点から区別をすると、不愉快なコメントのほとんどは、勝手な推測、邪推、決めつけです。不健全な発言に、健全な人や著名人、アスリートが振り回される必要はありません。 

(2)自分の感情と他者の感情を分ける 

私たちには、他の人の気持に共感する能力が備わっています。スポーツの「感動をありがとう」がまさに、いい例です。観客が競技者と一体感を味わえたからこその発言です。

ところが、この共感が悪い方に向かうと、他者のマイナスの感情に、自分の感情まで悪影響を受けます。例えば「お前のせいで、不愉快になった」などの書き込みです。

この場合、読み手も不愉快な感情になりがちです。しかし、落ち着いて読み直してください。不愉快な感情の持ち主は、競技をしたあなたではありません。最善主義でがんばったのです。

ぜひ、胸を張ってください。 

(1)と(2)を実践することで、「このコメントは、憶測によるものだ」「この憤慨した気持ちは、私のものではない」と、冷静に認識(受け止める)できるようになります。 

次:それでも、という場合の心を守る方法

それでも、という場合の心を守る方法

あくまでも「受け止める」ことが大事とお伝えしました。しかし、その前に、傷ついたアスリートの方々のメンタルのケアも必要です。

カウンセリングでは、次の順番を重視しています。 

(1)気持ちを吐き出す(傷を癒す) 
(2)対策を考える 

この順番です。

(1)を行わずに、いきなり「どうすれば回復できるのか」のようなアドバイスを言われても、気持ちがついていきません。アスリートも人の子です。まず、最初に取り組むことは吐き出すことです。

たとえば柔道の阿部詩選手の号泣。柔道家としていかがなものか、という指摘はあります。しかし、人間として考えた場合、あの行為があるからこそ、立ち上がることができるのです。

では、具体的な方法を2つご紹介します。 

「セミの抜け殻」ワーク

落ち込む場面をひとつ思い出してください。

その場を、見ている「もう一人の自分(ここではBさん)」が居ます。Bさんから見て、落ち込んでいる本人(ここではAさん)の姿が見えています。 

① Bさんから見て、Aさんの表情はどのように見えますか? 姿勢や息づかいは、どうでしょうか。

② Aさんの胸に耳を当ててください。あなたに聞いて欲しいことがあるようです。耳を傾けて、ジッと聞いてあげてください。 

③ Aさんの思いが確認できました。今度はBさんからAさんに、「ホッとできる言葉」をかけてあげてください。その際、Aさんの手をギュと握ってもいいです。ハグをしてもいいです。背中をさすったり、肩や頭をなでたり、どのような仕草でも大丈夫です。Aさんがホッと安心できる仕草も添えてください。 

④ 一通り終わったら、再びAさんの表情や姿勢などを確認してください。ほんの少しでも明るさが取り戻せたのであればOKです。もし、変わらない場合、上記の②と③を繰り返します。 

本来、コーチや親友が傍に居て行ってくれれば良いのですが、ひとりぼっち場合(とくに孤独感に襲われるのは一人のときです)、頼むことができません。その場合のセルフケアの方法です。  

風船ゲーム 

夜、布団の中で「不安に襲われる」「あれは許せない」などのネガティブな思いが次々と出てきてしまい、なかなか眠れないときの対処法です。布団の中でもできるのがポイント。

書くと長いですが、実際には数分で終わります。ゲーム感覚で取り組めます。 

① 目は閉じたままでOK!

② 両手を天井に向けます。できればまっすぐ伸ばします(肩が痛い方は、頭の中でイメージするだけでもOK)

③ 指先からレーザービームの光線を発射することをイメージします。

④ 頭の中にある不安を風船の中に入れ、天井に向けフワフワと飛ばします(風船はあくまでもイメージです。その風船を頭の中から切り離します)

⑤ 数々の風船を、指先から発射するレーザービームで、パンパンと撃ちます。不安が無くなるまで続けてください。 「バ~ン!」「パンパン}「やったぜ!」のように、声に出すとより効果的です。  

⑥ 頭の中の不安がなくなったら、レーザービームを屋根の外まで貫通させましょう。 

⑧ ドンドンと空高く、夜空の遠く、宇宙まで届かせるイメージ。 

⑨ 両手を、前にならえのように真っ直ぐ伸ばした後、手と手の間隔を広げたり、狭めたりします。手の動きに合わせて、レーザー光線の幅も広くなったり、狭くなったりします。 

⑩ 自分の気持ちが、ホッと安心できる広がりを見つけてください。  

この2つのワーク、どちらも(1)の「気持ちを吐き出す(傷を癒す)」ためのものです。 

そして、気持ちを切り替えることができたのならば、ぜひ日々のトレーニングに取り組んでください。日々の鍛錬への集中こそが、プラスのエネルギーを高め、マイナスのコメントに打ち勝つ最良の対策(2)となります。 

さいごに。人を呪わば穴二つ

「人を呪わば穴二つ」。このことわざは、他者を呪うと、結果的に自分の墓穴も掘るという意味です。

自分の発した悪意の言葉を、もっとも身近で耳にするのは自分自身です。従って、自分の脳(特に海馬)にダメージを与えることが、脳科学的にも証明されています。

相手に同じように仕返しをすると、このことわざと同じ結果になってしまいます。 

アスリートである前に皆さんも人間です。怒りや悲しみなど、お持ちになるのは至極当然です。ただ、同じ土俵に上がる必要はないとお伝えしました。

傷が癒えたのならば、ぜひ再び、数段高いステージを、頂点を目指してください。誹謗中傷の声が届かないくらいの輝く頂点です。その姿を、私たちは応援しています。 

著者プロフィール

佐藤城人(さとうしろと)

心理カウンセラー・心理セラピスト・気功師範。過去にアルコール依存症を患った経験があり、それを克服する過程で40代に再度大学に入学、心理学と出会う。各種依存症やインナーチャイルドを抱える方、さらには摂食障害の悩みなど、これまで10年間で約5000名様の悩みをサポート。摂食障害の回復プログラムの中で「正しさよりも心地良いダイエット法」を提唱する。2019(令和元)年一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会を設立。現在はカウンセラー・セラピストの養成にも力を入れている。https://www.in-ct.org/

<Text:佐藤城人、Edit:編集部>

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