大島康徳氏「余命1年」宣告から1年半 球場に行くのが最高の治療

2018年05月08日 09:40

野球

大島康徳氏「余命1年」宣告から1年半 球場に行くのが最高の治療
夫婦の絆を感じさせる大島康徳氏(左)と奈保美夫人 Photo By スポニチ
 【夢中論】がんで闘病中のプロ野球解説者、大島康徳氏(67)が自身の人生観を語った初の著書「がんでも人生フルスイング」(双葉社)を上梓(じょうし)した。取材に応じた大島氏は、2016年10月に「余命1年」と宣告されたことを初めて告白。人生の最期を覚悟した中「今仕事に夢中だ」という。「人生はどれだけ生きたかではなく、どう生きたかが大切」。その思いを自宅近くのファミレスで聞いた。
 まさかの喫煙席だった。プロ野球歴代19位の2204安打を誇る大打者がインタビュー場所をデニーズに指定したことにも驚いたが、喫煙席を選んだことにはもっと驚いた。

 ステージ4のがん患者。余命1年と宣告され、今年3月には体調不良で再入院したばかり。「まさかタバコ吸わないですよね」と確認すると「そのまさかですよ(笑い)。今やめたからって、本当に長生きできるとは限らんでしょ?」。そう言いながら手にしたのはショートホープ。

 確かに、顔色や肌の張りは病を思わせぬほど健康的。入院時の写真とは別人だ。「やりたいことを我慢して生きるのは、しんどい。何をやるかは自分で決めたいよね」。同席した妻の奈保美さんは「その考え方についていく家族は大変ですよ」と苦笑いしつつも、夫婦の表情は明るい。

 がんと分かってから、今まで以上に「やりたいこと」に貪欲になった。中でも自分らしさを最も実感できるのが「仕事」だ。プロ野球評論家。球場の放送ブースで解説し、記者席でスコアブックを付ける。「野球は仕事であり、人生そのもの。球場に行けばアドレナリンが出る。仕事をすることが最高の治療ですよ」

 テレビ解説の仕事復帰は、手術半年後の17年4月4日。ZOZOマリンでのロッテVS日本ハムだった。両チームの監督、選手、スタッフ、放送関係者、記者、プロ野球OBが温かく迎えてくれた。「自分が生きていく場所はやっぱりここだ」と改めて確信した。

 がんと分かったのは16年10月。最初はダイエットがうまくいっていると思っていた。疑問に感じた奈保美さんに促され、受けた検査の結果はステージ4の大腸がん。肝臓にも転移していた。「でもショックはあまりなかった。なるようにしかならないから考えても仕方ないかと」

 翌11月の大腸がん手術は成功した。だが、肝臓のがんは今もそのまま。抗がん剤治療で経過観察を続けている。「多くの人が早期に手術して根治を目指すでしょ。そうなればめでたいけど、体に大きなダメージを与えてしまったら元も子もない。だったら一緒に付き合ってしまえばいい。悪ささえしなければ、ここ(肝臓)にいてもいいよって」。今まで通りの生活をしながらの闘病を選んだ。

 ブログも生きる励みになっている。がんと生きる過程を「ズバリ!大島くん」で公開中。がん闘病記をつづった小林麻央さんのブログに感動し、17年2月に立ち上げた。麻央さんと面識はなかったが、お互いのブログで励まし合ったこともある。今年1月に他界した星野仙一氏、先月急逝した衣笠祥雄氏も、がんと闘いながら最後まで自身の務めに全力だった。特に同じ評論家として、他界する4日前までテレビで解説していた衣笠氏について「サチさんは最後の最後まで仕事人でしたね」。目標ができた。

 「ドリーム・ベースボール」というイベントに毎年参加している。プロ野球の有名OBたちが中学生までを指導する、大島氏にとってのライフワークだ。ユニホームに袖を通す貴重な機会でもある。「着ると体が昔を思い出してパワーがもらえる。魔力だね」。野球界から今なお求められているという事実が、生きる自信になっている。

 宣告された余命から半年以上過ぎた。抗がん剤の副作用で指先や唇がピリピリすることがある。血液検査の数値に一喜一憂することもある。だが体調は良いし、食べたいものを食べている。タバコも吸えば酒も飲む。家族や愛犬の祭(まつり)に見送られ、大好きな球場へ仕事に行く。ひと言で言えば「それが幸せ」なのだ。

 妻に支えられている。落ち込んでいる時、笑い飛ばしてくれる明るさは宝物だ。「感謝していますよ。36歳で結婚して飲みに行くのもやめた。結婚が転機になった」。それを聞いた奈保美さんが「愛情表現になっていませんよ、結婚がただの転機だなんて」といたずらっぽく笑うと「男の感謝にはいろいろなものが詰まっているんだよ」と照れた。互いに笑顔なのは夫婦円満の証。大島氏の「感謝」は人生2度目のプロポーズに聞こえた。

 ≪初の著書に思いを込めて≫ がんとの向き合い方や家族への感謝をまとめたのが初の著書「がんでも人生フルスイング」。「がんや抗がん剤治療の副作用について理解が進めば、もっと多くのがん患者が仕事を続けられる」との思いを込めた。「がん患者への見方が少しでも変われば」と期待している。がん患者やその家族から反響があり、発売1週間で1万部を突破。現役時代とはまた違う“ヒット”の予感だ。

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