【センバツの記憶1979年・前編】“神様”も衝撃「ドカベン香川」漫画のヒーローが早春の甲子園に現れた
2022年03月17日 17:10
野球
1979年3月29日、センバツ1回戦の8回、浪商の4番・香川伸行が4度目の打席に入った。5球目の低め直球。フルスイングすると打球はバックスクリーン左へライナーで飛び込んだ。古豪復活を願ってスタンドを埋め尽くしたファンは驚き、そしてほほえんだ。ゴムまりが転がるようにダイヤモンドを回る姿はまさに…。ニューヒーロー「ドカベン」が全国の野球ファンに認知された瞬間だった。
水島新司氏が描く野球漫画「ドカベン」の連載が始まったのは1972年4月、香川が小学校5年生の時だ。中学校は強豪といわれ、浪商高校の系列でもある大阪体育大学付属中に進学した。
「小学校でも中学校でも“ドカベン”て呼ばれたことはなかった。ボクは漫画を全く見ていないんです。ドカベンというのが“大きな弁当”というのは分かっていた。それ(主人公の山田太郎)が柔道やって、野球やってとかいうんは全く知らんかった。あの頃は漫画というより本読む自体が好きじゃなかったんで全く読まへんかった。ドカベンを目にした覚えがないんです」
中学3年の大阪府中学校野球大会。準々決勝で後にバッテリーを組む牛島和彦がいる大阪・大東市立四条中学と対戦する。試合は延長13回、大体大付が勝つのだが、同大会の2回戦で完全試合を演じていた牛島の好投が香川の目に焼き付いていた。高校進学が迫っていた。香川は硬式の少年野球チーム「西成ハンターズ」の縁もあり、奈良の天理高校の練習を見学していた。
~浪商“夏復権3年計画”の目玉に「牛島―香川」バッテリー~
「奈良って校数が少ないじゃないですか。甲子園出やすいなと思ったわけ。自分では天理に行くつもり。でも…」
中学大会の活躍で強豪校からの勧誘が増えた牛島も進路で迷っていた。浪商関係者との食事会。夢のような出会いがあった。
「浪商から強くしたい、来ないかという話があって。高田さんがきた。そこで牛島くん、浪商でやってくれないか。入ってくれという話で。もう時効やと高田さんもいってますけど」(牛島氏)
「高田さん」とは高田繁氏。1961年浪商の夏甲子園優勝メンバーでプロ野球巨人軍V9戦士。牛島の中学3年当時は巨人の「三塁手」としてダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)も獲得している。
牛島が「雲の上の人」の言葉で浪商進学を決断した直後、香川は中学校の教師にこう伝えられている。
「浪商は尾崎さんで優勝して、ちょうどボクらが生まれた昭和36年から夏の大会に出てないから。とにかく夏に出てくれ、と。浪商の付属やから。牛島くるから浪商に上がってくれっていわれて決めた」
浪華商時代も含め春夏4度全国制覇をしていた当時の浪商だったが、夏は尾崎行雄を擁して優勝した61年から甲子園に手が届かなかった。浪商OBでもあり洲本高校(兵庫)で53年春優勝している広瀬吉治監督を中心に3年計画を立案。その目玉が「牛島―香川」のバッテリーだった。香川、牛島に山本昭良(後に南海)を加えた1年生トリオは入学直後からレギュラー定着。5回戦で八尾に敗退した夏の大阪大会前から地元メディアに香川の存在が少しずつ知られるようになり「ドカベン」と表現されることもあった。
~“育ての親”水島新司先生との知られざる出会い~
それでも「ドカベンは意識していなかった」という香川に衝撃的な出来事があった。
「1年生の夏ころやったかな。水島先生がひょこっと(大阪西成の)家に来て。おれは学校行ってるやないですか。お母ちゃん(サダ子さん)も最初は誰か分からんかったっていうとった。先生が“育ての親です”といいはって。それで分かったと。先生もウチの近くに住んでいたことがあって。でもボクはその時は会うてないんです」
夏休みが明け、浪商は実りの秋を迎えた。近畿大会に進出。準決勝で翌年の夏日本一に輝くPL学園(大阪)を撃破。決勝は村野工(兵庫)に敗れたが翌春のセンバツ出場を決定的なものにした。
センバツ本大会。78年3月28日、香川は1回戦、高松商(香川)戦を前に甲子園に隣接する甲陽学院での練習中“育ての親”に声をかけられた。
「ドカベンと言われだしてから、先生の顔は新聞とかで知っとった。そのとき初めてですかね。会うたんは。何と言われたかは覚えてへんけど」
当時のメディアではこの出会いはほとんど報じられていない。「ドカベン」の活字も小さく掲載されているだけ。浪商は高松商に初戦敗退。香川は2打数1安打2四球に終わった。ドカベンの存在は全国に広まることなく初めての春は過ぎていった。
2年生の夏は大阪大会4回戦で初芝(現初芝立命館)に惜敗。チーム最上級生となった9月、香川は主将として大阪府秋季大会に臨んだ。もう負けられない。だが不運が香川を襲った。大阪大会4強リーグ戦で右手中指を骨折。センバツ出場をかけた近畿大会出場は絶望的と思われた。
~川上哲治氏が「プロでもめったにお目にかかれない打球」~
「京都の病院行ったら複雑骨折。すぐ手術ですよ。結局、近畿大会準決勝、決勝だけ。ピンチヒッターで。チームは控えのキャッチャーで優勝した。でもそれがなかったらプロに行ってないと思う。それまでは自分のチームで自分が守って打って勝つ。天狗になっとった。骨折で、もう甲子園行かれへんとあきらめとった。それでも控えのキャッチャーで勝ち進んでいく。だんだん寂しくなっていく。それまでは満塁ホームランを一人で打てると思っていた。でも満塁ホームランは一人で打たれへんと思った。野球はチームワークや。それまで思ったこともなかった。貴重な経験になった」
1979年3月27日、香川は「チームのみんなに連れて行ってもらった」というセンバツが開幕した。3日目の初戦、愛知戦で放ったホームランはネット裏で観戦していた元巨人監督で“打撃の神様”といわれた川上哲治氏が「プロでもめったにお目にかかれない打球」と絶賛した衝撃の一打だった。劇画から飛び出してきたヒーロー「ドカベン香川」旋風が夢舞台を吹き抜けた。
(後編に続く)
おすすめテーマ
2022年03月17日のニュース
特集
野球のランキング
-
阪神・青柳 コロナ陽性判定 内定していた開幕投手は代役濃厚
-
センバツ 京都国際辞退にネット衝撃「必ず夏に」「近江頑張れ」「聖隷クリストファーも出して」の声
-
18日開幕のセンバツ V候補・京都国際が辞退、部内で13人コロナ集団感染…補欠の近江が代替出場へ
-
巨人・鍵谷 シート打撃に登板 打者8人に30球 安打性1
-
-
巨人「監督・選手プロデュース弁当&グルメ」を25日から東京ドームで販売開始
-
【センバツの記憶1998年・前編】「平成の怪物」松坂大輔3年春 初聖地で甲子園史上初150キロの衝撃
-
【センバツの記憶1998年・後編】「怪物・松坂」特別なPL戦、春618球で得た確信…そして伝説の夏へ
-
花巻市でも震度5弱 センバツ出場の花巻東・佐々木洋監督「期待に応えられるように」
-
【センバツの記憶1979年・前編】“神様”も衝撃「ドカベン香川」漫画のヒーローが早春の甲子園に現れた
-
【センバツの記憶1979年・後編】「ドカベン香川とイケメン牛島」は「山田太郎と里中智」ではなかった
-
ロッテのブランド「umi(ウミ)」が新商品 モデルは平沢大河と池田来翔
-
ドラフト隠し玉ハンター「菊地選手」がセンバツ1953年以来の離島V狙う奄美大島・大島を動画解説
-
【センバツの記憶1978年・前編】小さな無名右腕が春夏史上初となる完全試合!前橋・松本稔の78球
-
【センバツの記憶1978年・後編】なぜ僕が、なぜ78球で…5132戦目史上初の完全男・松本稔の証言
-
身長2メートル超のロッテ・ゲレーロは投内連係もOK 井口監督「器用なところある」
-
阪神・森木がまた圧投!デビュー2戦目は最速151キロ スライダーで併殺も
-
広島新助っ人マクブルームが入団会見 昨季3A32発の大砲も「自分はアベレージを残せる打者」
-
ブレーブスのフリーマン一塁手がドジャースとの契約に合意 6年で192・8億円
-
西武が「最先端アカデミー」4月開講 動作解析指導導入 源田「とても本格的」
-
阪神 開幕戦はベリーグッドマンが熱唱!セレモニー概要を発表
-
甲子園歴史館であす18日から「投球体感映像」「審判カメラ映像」の最新版を公開
-
新庄監督の信念に感化され…「世界が尊敬する日本人100人」Fumiya氏「フィリピンとの架け橋に」
-
開幕目前の楽天生命パークは地震による大きな被害なし チーム関係者と家族の安全も確認
-
阪神 練習試合で大商大と対戦 井上が「1番・左翼」で先発出場
-
西武GWイベント 5日は小学生以下の子供全員に源田監修グラブ 8日は横山だいすけ氏来場
-
日本ハム3・30西武戦で北京五輪銀のロコ・ソラーレがファーストピッチ 藤沢「チーム一同とても楽しみ」
-
西武がBCリーグ交流戦 昨季から12試合増の15試合開催 秋元ファームD「選手が成果を発揮する場所」
-
DeNAが絵本「スターマン☆ランド~おなかのおおきな王子さま~」発売
-
センバツで宣誓の倉敷工・福島貫太主将「感動を」
-
あす18日開幕のセンバツに向けてリハーサル実施 選手宣誓は倉敷工・福島貫太主将
-
【内田雅也の追球】伊藤将が見せた神業 1000分の1秒の誤差を修正し、大量失点から立ち直る
-
【スポニチスカウト部(2)】西部ガスの最速150キロ右腕・大畑蓮 総合力で上位指名狙う
-
【オープン戦隠しマイク】ヤクルト・高津監督「小川と奥川、“ダブルやす”でややこしいけれど」
-
カブス・ロス監督が合意報道の鈴木誠也を歓迎「噂にとても興奮している」
-
なぜ誠也が必要だったのか 再建中のカブスが求めるものとは?
-
エンゼルス大谷 ライブBP初登板で最速158キロ、安打性ゼロと圧倒 指揮官絶賛「テンプラーノ!」
-
花巻東・麟太郎 1年で大谷先輩と並ぶ56号 清宮上回る歴代最多ペース
-
浦和学院・高山 「面白い」コーチに直訴して捕手転向 昨春まで外野手
-
九州国際大付 噂の1年生スラッガー・佐倉はフォア・ザ・チームを強調「本塁打という意識は捨てて…」
-
18日センバツ開幕 開会式リハーサルは17日午前9時から ブラスバンド生演奏も復活
-
広島守護神・栗林 待望オープン戦初セーブ!1失点も修正へ手応え「良かったところは継続できるように」
-
広島ドラ3・中村健 オープン戦初打点で開幕スタメンアピール 佐々岡監督「可能性ある」
-
ロッテのドラ1・松川 開幕マスク!井口監督抜てき 史上3人目高卒新人大役
-
巨人 中田弾で連敗7でストップ!気負いなく4番で先制打&3ラン、チーム全打点挙げた
-
巨人・堀田 5回零封!開幕ローテ決定的 原監督も高評価
-
巨人・ドラ1大勢 抑え候補に浮上!156キロ1回完全 OP戦5試合で5回投げ防御率0・00
-
中畑清氏 巨人・大勢は抑えでいけると確信 15年に抑えに抜てきのDeNA・山崎より球種も多い
-
中日 新・方程式「MRI」結成!7回ロドリゲス、8回岩崎、9回R・マルティネスの共鳴で勝利が見える
-
楽天新外国人・マルモレホス&ギッテンス 実戦初出場は「打つ」より「見る」
-
楽天・早川 実戦3試合で計12回無失点!シーズン初登板は30日オリ戦の見込み
-
楽天・島内 4番で2打点も「好きな打順は9番です」
-
オリ・吉田正 開幕へ上昇気流マルチ!「しっかりと実戦に入っていけてる」今春2度目左翼守備もこなす
-
ヤクルト・ライアン 2年連続6度目開幕投手!本拠地開幕は奥川
-
DeNAの先発6番手争い「延長戦」に突入!浜口&坂本ともに4回零封
-
西武・愛斗 ビッグボスの秘蔵っ子粉砕満弾 3安打全4打席出塁で出塁率もアピール
-
日本ハム・姫野 洗礼5失点…初回炎上で2軍調整 有力候補だった開幕投手は白紙に
-
日本ハム・ドラ3水野がプロ1号 OP戦10試合で打率・375 開幕スタメン切符つかみとる
-
日本ハム新外国人・アルカンタラ手応え初安打「来たボールをしっかりコンタクトできた」
-
ソフトバンク打線つながる4回一気6点 佐藤直から6連打含む猛攻8安打に藤本監督「集中力は大したもの」
-
ソフトバンク・風間 プロ初ブルペンで無限の可能性示す最速147キロ「強くという意識で投げた」
-
阪神・青柳 開幕白紙に矢野監督「しゃーない。バネにできる選手なので」、代役は藤浪有力
-
連夜の阪神・佐藤輝劇場や!2戦連発だけじゃない、プロ初3四球で8打席連続出塁「今いい状態かなと」
-
阪神・坂本“変身”猛打ショー “守備の人”だけじゃない!3安打「必死に対応しようと思った結果」
-
40歳の阪神・糸井 ホンマにあるで開幕スタメン 初回に2点適時打「イメトレやともうちょっと打てた」
-
阪神・秋山 尻上がりの今春最多7回98球 2軍プロアマ戦調整登板で3失点も4回以降零封
-
阪神・伊藤将 魔の4回…3回まで完全も一挙6失点「反省点を修正してしっかり準備をしたい」
-
新型コロナ感染の阪神・井上が実戦復帰 まずは補殺で存在感示す 同じく植田も代走で復帰
-
連日の一発&四球の佐藤輝を絶賛「中身はレベルが上がったなという感じ」 16日の阪神・矢野監督語録
-
松坂大輔氏、中村憲剛氏 野球&サッカーの豪華同級生対談が実現 17日からYouTubeで公開
-
誠也 カブスと合意!日本野手歴代最高額5年100億円 低迷脱出の救世主に
-
エンゼルス大谷 開幕投手照準!初の大役「やってみたい」、初ブルペン投球で「昨季より良い状態」
-
エンゼルス大谷 新たなシーズンへの野望 サイ・ヤング賞へ意欲「もちろん獲りたい」
-
パドレス・ダルビッシュ 初BPで最速154キロ!エンゼルス大谷との開幕投手競演あるぞ
-
雄星 ブルージェイズ入団会見、早速チーム練習合流しブルペンで40球
-
レッズ秋山 太陽光を正面に受けボール見失うも前向き
-
レッドソックス沢村 初ブルペンでリズム意識「ゆっくりやります」
-
パイレーツ筒香 別メニューで調整、指揮官「日本から来たばかりで、無理させない」