【なでしこジャパン】藤野あおば、燃ゆる　初出場19歳　次代のエース候補は高校で変わった

2023年07月12日 05:30

サッカー

【なでしこジャパン】藤野あおば、燃ゆる　初出場19歳　次代のエース候補は高校で変わった — 恩師の石山隆之総監督（左）と並んで笑顔の藤野あおば（撮影・小海途　良幹） Photo By スポニチ

　【More　W杯】20日開幕のサッカー女子W杯オーストラリア・ニュージーランド大会で、日本代表は22日に初戦を迎える。ザンビア戦まであと10日となった「なでしこジャパン」の浮沈の鍵を握るのが19歳のMF藤野あおば（日テレ東京V）だ。1トップと2シャドーにW杯経験者がいない中、初出場ながらレギュラー格として活躍が期待される。若き才能はどんな高校時代を過ごし、飛躍の糧としたのか。本人だけでなく、周囲の声から成長の跡をたどった。

　W杯経験者不在の攻撃陣で大きな期待を背負うのが19歳の藤野だ。法大に通う、現役大学生のWEリーガー。昨年のU―20女子W杯では日本の背番号10を背負い、準優勝に貢献した。昨季はWEリーグでベストイレブンを受賞した、次代の大黒柱候補だ。そんな藤野にとって、サッカー人生の転機の一つが女子サッカーの名門・十文字高（東京）への進学だった。

　現在もおとなしい性格だが、高校入学時は輪をかけてシャイだったという。十文字高の石山隆之総監督は、藤野と父・大輔さんと行った入学前の面談を今でも覚えている。「何かを主張するわけでもなく、お父さんの隣でおとなしく話を聞いていた。ただ、目は真剣だった」。部活の説明はもちろん、将来にさまざまな選択肢を持たせるために勉強の大切さも説いた。

　日テレ東京Vの下部組織から入学してきた藤野のセンスは、入学当初から光っていた。「最後までGKを見てシュートを打てた。GKと正対した時、高校生なら左右上下の4コースが見えて、狙えれば十分。でも、あおばはGKの股下も含めて5つあった」。すぐにレギュラーとなった。

　ただ、てんぐにはならなかった。練習場には早めに入り、ボール磨きやマーカーの準備なども率先して行った。恥ずかしがり屋が練習中に大声を張り上げ、居残りでボールを蹴った。日テレ東京Vの下部組織から、1つ下の世代として藤野の姿を見てきた日テレ東京Vの同僚FW氏原里穂菜は、高校入学時にその変化を感じたという。

　「それまでは背中でチームを導くタイプで、前に出る方じゃなかったから、声出しで盛り上げていてびっくりした」。主将だった3年時には、藤野本人も「今でも考えられないくらい、凄く声を出してました」と照れるほどに全身でチームをけん引した。

　母・亜希子さんが娘の成長を実感したのは、高校最後の試合だったという。その日は法大の入試と重なった。本人は迷いに迷い、仲間に勝利を託して受験を選択。試合には間に合わないかもしれない中で試験を終えると「試合会場に行きたい」と訴えた。到着したのは後半。ピッチには立てず敗戦を眺めるしかなかった藤野は、涙を流していた。

　「高校1、2年生の時は先輩たちとプレーしていて、同級生と関わることが少なかった。それでも受け入れてくれて、キャプテンになった3年生の時も協力してくれたみたいです。仲間に凄く恵まれたと思いますし、仲間に対して熱い思いというか、そこに成長を感じました」と回顧する。

　技術的にも視野が広がる3年間だった。藤野はそれまで「体に染みついたプレーを感覚的に出していた」というが、チームの勝利のために「“このプレーをやろう”と、意識付けして動くようになった」と振り返る。

　「今まで自分のスピードで勝つのが重要だと思っていました。ただ、先の先まで見据えながらプレーし続けたことで、相手の動かし方が分かった。自分のスペースをどうつくるのか。WEリーグでも相手を動かすように、頭を使えています」

　昨季終了後、代表合宿に入る前には高校の練習に参加した。「主将としてみんなをまとめる、引っ張ることが大前提。その中で自分のクオリティーを上げないといけなかった」という3年間を再確認するかのような時間。サッカー選手としてだけでなく、人間として成長した19歳は、世界との激闘に挑む準備を整えた。

　◇藤野　あおば（ふじの・あおば）2004年（平16）1月27日生まれ、東京都町田市出身の19歳。兄の影響で幼稚園の年長からサッカーを始める。U―16日本代表に選ばれるなど早くから頭角を現し、昨年8月のU―20W杯では準優勝に貢献。同年9月になでしこジャパンに初選出され、同10月のナイジェリア戦でA代表デビューを飾った。Aマッチ通算9試合無得点。家族は両親と兄、姉。1メートル62、56キロ。利き足は右。好きな言葉は「人事を尽くして天命を待つ」。好きな母の手料理はカレーライス。