プロゲーマー目指し夢追う専門学校生たち 見据える視線は世界
2017年09月19日 05:30
スポーツ
まばゆいスポットライト、大観衆の歓声、会場の大型スクリーンで紹介された自身の映像。eスポーツの世界のステージに初めて立った瞬間を、NessCycle(ネスサイクル/荒井和磨=20)は一生忘れないだろうと言う。「緊張しすぎて、自分がプレーしたときは指の震えが止まりませんでした。頭では“やらなくちゃいけない”と分かっていても、身体が先に反応してしまって…。あの経験は大きかったです。あのときの試合で味わった悔しさをバネにしていこうと思っています」
ネスサイクルは東京・アニメ声優専門学校の総合プロゲーマー専攻で学ぶ2年生。今年7月に、世界的なeスポーツタイトルとなっているチーム戦略ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」(LoL)の世界学生選手権に日本代表チームのメンバーとして出場した。同選手権には韓国、中国、米国など10カ国から12チームが出場。他国との実力差は明白で、日本は予選敗退、全体の最下位で大会を終えた。
ネスサイクルがゲームに親しむようになったのは小学生の頃だった。周囲の友人たちがスマホゲームに夢中になる中、当時人気だった「メイプルストーリー」をきっかけにPCゲームを指向するようになっていった。LoLはプレーを始めて3年目になる。世界大会の熱狂をインターネットの動画配信で目の当たりにして、eスポーツにあこがれるようになった。
高校の卒業を間近に控えて、東京・アニメ声優専門学校の募集を知って決断した。「勉強ではっきりした目標もないのに、大学に入っても辞めてしまうかも…と思いました。それならば好きだし得意分野でもあったゲームの腕を伸ばしてみたいというのが、進路を決めた理由です」。“ゲームに励む、プロゲーマーを職業にする”というのは、日本ではまだ世間一般に認知されているとはいえないのが実情だ。だが、ネスサイクルから見ればその選択は「自身の好きなこと、得意なことを磨きたい」という自然な動機からくるものだった。戸惑いを見せた両親は、ネスサイクルが思いを率直に語ることで最後は背中を押してくれたという。
現在は平日、休日を問わず、1日10時間以上ゲームのトレーニングに没頭している。ただゲームを好きでプレーしていただけの高校生までの頃と、その意味合いが違うことは自らが一番分かっている。プロゲーマーになれなければ、10代から20代になる2年間のほぼすべての時間が徒労に終わるのかもしれない…。対戦相手に敗れたときは悔しさと不安でなかなか寝つけないこともある。「今、学ばないと後がない。2年間で詰め込めるだけ詰め込んでおきたいという気持ちがすべてです」。まっしぐらに夢に向かって駆けていく高揚感と、ふと後ろを振り返ったときの焦燥感。それは、誰もが同じ年代のときに見たであろう等身大の心象風景だ。
同校で学んで、ゲームの実力だけでなく人間としても成長できた実感があるという。得意だと自負していたゲームで対戦相手に打ち負かされ、葛藤を乗り越えて、そんな自分自身を受け入れられるようにもなってきた。「入学したばかりの頃は自分の弱さを認められないという誤ったプライドがありました。負けたらチームを組む仲間のせいにしてしまったことも。でもそれじゃあ成長できないと、気づくことができました。今は仲間からミスを指摘されても、認めることができるようになってきたと思います。すべてを糧にして向上していきたいんです」
来年3月、同校のプロゲーマー専攻の第1期生としてネスサイクルは卒業する。日本では強豪プレーヤーでも、世界の第一線とのレベル差はまだまだある。そこに手をかけて、振り落とされないようにしがみついて、這い上がった先にプロゲーマーの道が開けてくる。「入学したときはプロになれるのかという不安、緊張がありました。本当になれるのかな?っていう…。今は違います。プロにならなければならない、本気でやらなければいけない、そう思っています」。その視線は、世界だけを見据えている。(終わり)
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