【大学スポーツ】「立教スポーツ」編集部
立教大学【佐藤拓也・引退記念特集 〜神宮に刻んだ102の足跡〜】<前編>
2016年11月08日 05:30
野球
◎現れた天才打者
高校時代は名門・浦和学院高で3回甲子園に出場。エース兼野手として投打ともに注目された。鳴り物入りで立大に入学し、大学ではプロ入りを視野に野手に専念することを決めた。
破竹の勢いだった。1年次春から出場機会をつかむと、2年次春は安打を量産。洗練されたレベルスイングが次々と白球を捉えていく。「広角に外野の間を抜く長打を打てることが武器」。右へ左へ、強烈なライナーを打ち分けた。驚異の打率4割、21安打を記録し、2季連続となるベストナインを受賞。一躍立大の顔となった。
そしてジャパンの佐藤拓也へ。リーグ戦での成績が評価され、2年次から3年連続で大学日本代表に選出された。4年次には副将として日米大学野球選手権連覇に大きく貢献。1番打者を務め、大学球界きってのリードオフマンとしてその名を知らしめた。
◎「チームのために」
常にチームの命運を背負っていた。毎試合主軸打者として攻撃の核を担う彼の成績は、チームの勢いにそのまま直結した。
2年次秋以降は成績を落とした。高まる周囲の期待、のしかかる責任――。「優勝したい」、「打ちたい」といった強い思いが、重圧となり自らの首を絞める。悪循環だった。
そんな中、最終学年となった彼が繰り返し口にした言葉は「チームのために打つだけ」。背には立大中心選手の証、「1」の数字が光る。副将となり、更なる重圧がその背にかかっていた。だが、彼の視線は前を向く。そこに映るのは背負うものでもなく、先にある優勝や通算100安打といった大目標でもない。目の前の一打席、一球だった。「優勝を目指して戦って、終わった時に100安打を達成していればいい」。
すると結果は自ずとついてきた。ラストイヤーは不動の1番打者として打線を牽引。熾烈な優勝争いを演じる立大を先導し続けた。フォアザチーム精神が男を突き動かす。そして、気づけば通算100安打の大記録が目前に迫っていた。
◎100本目の快音
迎えた東大3回戦は、勝ち点をかけた重要な一戦。前日に3安打を放ち、通算100安打まであと2本と迫っていた。第一打席に安打を放ち、大記録に王手をかける。
1点リードで迎えた6回、大きな期待を受けながら先頭打者として打席に立つ。これまでの打席と何ら変わらない。バットをくるりと回すルーティンを終え、投手と相対する。2球目の直球だった。低速球を鋭く振りぬく――。
神宮球場に100本目の快音が鳴り響いた。打球は逆方向にぐんぐん伸びる左翼フェンス直撃の二塁打。逆方向への長打でチャンスメークし、らしさ全開で「ずっと目標にしていた数字」に到達した。その瞬間両校の観衆から祝福の拍手が送られた。ポーカーフェイスな彼も、この時は思わず塁上で笑みをこぼした。
その後も安打を放ち、3安打の固め打ち。重圧をまるで感じさせない働きで悠々と大台を突破し、チームを勝ち点奪取に導いた。
そして100安打の感想を聞くと、この日も淡々とこう語った。「チームのために打ちました」。無欲のフォアザチームを貫いた先に、自身の栄光があった。