【競輪記者コラム】2人のスペシャリストの言葉から迫る スタートの極意と真相
2023年12月07日 17:30
競輪
基本的には内枠が有利。少しでも車輪を差し込んでいれば、優先走路となるためである。それでも、雨谷のいう「反応が速い選手」がいれば形成は逆転する。では、どういう人が早い?「反応が大事なので、体重が軽い人は速い」と教えてくれた。体重が軽ければ体を動かすための必要な筋力が減り、脳が“動け”と体に指示をしてから、実際に動き出すのが速い。展開推理としても、外枠に体重が軽い選手はいれば注意だ。
次に、スタートを取るとどれくらい脚を消耗するのか。「これは調子による。調子が良ければ全く脚にこないし、悪いと脚にくる。基本的には2、3歩で相手に諦めさせるのが理想」。グッと踏み込んでスタートを取っても2、3踏みだけなら、その後のレースに影響なし。ただ、スタートで“踏み合い”になるとそれなりに脚を消耗するということだ。
ここから2人目のスペシャリストの話も紹介しよう。そのスペシャリストは雨谷が教えてくれた。“スタートでかなわない選手はいますか”と聞くと「福永君です」と即答した。福永大智(25=大阪・113期)。6日時点で直近4カ月21走中、スタンディング(S)数は、なんと「18」を記録している。前を取ることで、道中無駄な脚を使わず、強烈な捲りを連発。今期3Vと結果につなげている。福永に雨谷からの評価を伝えると「いやいや、ナショナルチームの方には勝てないと思う。でも、速くて悪いことはないし、持ち味だとは思っている」と照れながら胸を張った。
そんな福永のスタートのコツは?「体の使い方もあるけど、発走員の手を見ている。ピストル(号砲)を撃つと光るんですよ。それを見ている。光ると同時にもう発走機のロックが外れているんです」と秘密を教えてくれた。音速よりも光速の方が速い。“パン”という音ではなく、ピストルの光に超反応することで、ライバルを圧倒しているのだ。
スタートでどれくらい脚を使うか、どんな選手が速いかということに関しては雨谷と考えは一緒だった。「2、3歩で相手に諦めさせれば脚の消耗はない」、「小柄で体重が軽く俊敏性がある選手が速い」。ただ、「これは書いておいてください」とお願いされたことがある。「荒井(崇博)さんは速いです。負けそうになって焦りました」。“九州のドン”は大柄選手だが、福永を困らせたという。他にも体重100キロオーバーでもバック宙ができる島田竜二も選手内でスタートが速いと評判だ。大柄でも、例外的に速い選手はいるので注意したい。
「よく他の選手にスタートについて聞かれる」と福永は言う。スピード命の現代競輪になり、選手間ではスタートの価値が高まっている。ならばファンも車券戦術として軽視できない。雨谷、福永…と、予想する上でスタートの速さも考慮し、号砲がなる瞬間から注目してほしい。
最後に個人的な意見を。公式サイトでもレースのフル映像を見られるようにしてほしい。ダイジェスト映像では“なんでこっちのラインが前なの”ということが多々ある。スタートでの駆け引き、誰が速く出たのかなどが分からない。発走機を出る瞬間からのフル映像なら“この選手のスタートが速かったのか”と究明でき、次回の予想にもつなげられる。大切なお金を賭ける以上、予想のファクターは多ければ多い方が納得でき、おもしろい。ぜひ、ご一考を!(渡辺 雄人)
◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の28歳。法大卒。18年4月入社、20年1月からレース部・競輪担当。昨年は中央競馬との二刀流に挑戦。今年から再び競輪1本に。愛犬の名前は「ジャン」。