東日本大震災から10年 石川遼の“特別なことは何もしない”支援 被災地小学生と育んだ友情
2021年03月07日 05:30
ゴルフ
3月11日は米国に滞在していて激しい揺れを経験していない。「自分がここにいることに何か意味があるのか。みんな怖い思いをした。そんな経験をしていない僕がここに足を運ぶことで邪魔になるのではないか」。自問し、その場に立ち尽くした。
複雑な思いを抱きながら門脇小の子供たちと初対面した。校舎が使えない門脇小は高台にある門脇中で授業を行っていた。名前は伏せて「特別授業の講師」という設定でサプライズで教室に入った。
「みんな、こんにちは!」。暗い感じにしたくなかったので明るくあいさつした。すると教室中から「うわー」と歓声が上がった。
「家を失った子、家族を亡くした子もいる。みんなつらい思いをしているけど、そんなふうに見えなくて。彼らなりに消化して前に進もうとしているのが印象的だった」
石川は当時19歳。8歳年下の子供たちと友達になった。そしてプロゴルファーと石巻の子供たちの交流が始まった。1年後に再訪し、14年は2度足を運んだ。会っても特別なことをするわけではない。野球、花火、バーベキュー、ボウリング。楽しく遊んで、食べて、たわいもないおしゃべりをするだけだ。
子供たちがスマホを持つようになると「石川遼祭り」というLINEのグループができた。優勝すると「優勝おめでとうございます」と祝福のメッセージが届く。就職が決まったり、結婚したり、出産したり、人生の節目には報告がある。
「みんなの相談に乗れるような相手になれればと思っていたけど、全くそんなふうには頼られなかった」と苦笑する石川。成長を見守りながら「みんなが成人する姿を見たい」と思うようになった。
5回目の対面から4年後の20年1月。成人式を迎えた子供たちに会うため石川は石巻に向かった。「みんなスーツ姿や着物姿で。いい景色を見させてもらったなと思った。身長が高くなり、社交的になった。シャイで隅っこにいた子が堂々と話してたり。大人になったなあと感じた」
加賀翔太さんは野球少年だった。石川がバッターになって対決したこともある。プロ野球選手になる夢を持っていたが、肘を痛めて野球を諦め、製パン会社に就職した。避難所で生活している時に無料で配られたパンのありがたみが忘れられず「自分が作る側になる」と職業に選んだ。
「避難所での生活が職業を決めるにあたって大きな意味を持った。6年生の時の夢とは違うけど、誰かの役に立ちたいという根底にあるものは変わっていない。人と人とのつながり、絆を大事にする子が本当に多い」
被災地支援には寄付、慰問、チャリティーイベントなどいろんな形がある。石川も11年の獲得賞金全額とバーディー1個につき10万円を積み立てた義援金を被災地に寄付した。
限られた人たちとの10年間にわたる交流は異色な感じもするが「被災地支援は短期間で終わるものではない。プロゴルファー石川遼ではなく人間石川遼として被災地とどう向き合うか。僕の人生は人との出会いに恵まれてきた。だから出会いを大切にしようという思いだけ。僕にはこれしかできない」と語った。
出会いはテレビ番組のロケだった。その縁を大切にすることが自分らしい被災地支援だと考えているのだ。交流は今後も続ける。
「みんな二十歳を超えたので、お酒を一緒に飲みたい。ずっと楽しみにしていたので、飲んだら感慨深くなっちゃいそうですけどね」。これからも特別なことはしない。ただ友達として付き合っていく。(福永 稔彦)
【石川遼と門脇小の子供たちの交流】
▼11年7月 テレビ番組のロケで石川が石巻を訪問。門脇小6年生に特別授業を行い「夢」について語り合い、校庭でリレー、ゴルフ、野球などをして遊んだ。
▼12年7月 中学校に進学した子供たちと1年ぶりに再会。震災で家族を亡くした人たちの会に出席した。
▼14年1月 1年半ぶりに訪問。子供たちと一緒に餅つき。
▼14年7月 バスに乗って“遠足”。ボウリング、ゲームセンターで遊び、屋外でサッカー、バーベキュー、花火を楽しんだ。
▼16年1月 1年半ぶりに対面し、ゴルフ練習場、ボウリングで遊んだ。
▼20年1月 4年ぶりの対面。成人式を迎えた子供たちをサプライズで祝福。
《整備された住宅地、新しい公園 町の「活気感じる」》石川にとって石巻は特別な場所になった。「縁もゆかりもない地だったけど、石巻で出会った大人の皆さんも訪問するたびに待っていてくれる。地元以外にこれだけ知り合いが多いところはない」。
住宅地が整備されたり、新しい公園が造られたり、石巻の復興にも関心を持っている。「町全体が活気づいてきているのは凄く感じる。これからも活気のある石巻であってほしい」と思いを明かした。
◆石川 遼(いしかわ・りょう)1991年(平3)9月17日生まれ、埼玉県出身の29歳。6歳でゴルフを始める。アマチュアで出場した07年マンシングウェアKSBカップで史上最年少の15歳でツアー初優勝。08年プロ転向。日本ツアー通算17勝。1メートル75、70キロ。
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