【内田雅也の追球】6回に訪れた切所 相手の動きを見て、動かなかった岡田監督が勝負を制した

2024年05月11日 08:00

野球

【内田雅也の追球】6回に訪れた切所 相手の動きを見て、動かなかった岡田監督が勝負を制した
<D・神>6回、リリーフカーに乗ったままブルペンへ戻る島本(撮影・島崎忠彦) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神4ー3DeNA ( 2024年5月10日    横浜 )】 3―3同点とされた6回裏1死一、二塁のピンチだった。阪神監督・岡田彰布は「びっくりしたわ」と振り返った。
 マウンドは阪神2番手の右腕・石井大智。打順は1番の左打者・神里和毅だった。DeNA監督・三浦大輔がベンチを出て、代打に右打者の蝦名達夫を告げたのだった。

 岡田としては神里に左腕の島本浩也を救援で送り、代打・桑原将志との勝負と読んでいた。ベンチ内で「セイビ対決やなあ、と話していたんよ」。島本も桑原も福知山成美(京都)出身である。

 だから、予定していたダブルスイッチで交代となる左翼手・井上広大がベンチに向かって走り、左翼ブルペンの扉が開いてリリーフカーに乗った島本が出てきた。

 ただし、岡田はまだ交代を告げていない。先に相手ベンチが動いてくれたのだ。井上にも島本にも「戻れ」と指示した。

 蝦名が出てきたので、石井を続投させることができた。空振り三振に切った。2死となり、左打者の関根大気に島本を投入して遊直でピンチを脱したのである。

 「ほんま、びっくりした。オレが何か間違えたんかと思ったよ。普通、ああいうところはピッチャーの方が先に代えるんやろ。それが先に代打やったからなあ」

 相手監督・三浦は試合後「左(投手)が出てくると予想していました」と言った後、「右でも左でも蝦名でいこうと……。どっちでも蝦名の選択でした」と説明した。

 この場面こそ、勝負における切所(せっしょ)だった。もとは山道などの通行困難な所を指す言葉だ。「勝負の鬼」とまで言われた巨人V9監督・川上哲治は転じて<勝負の難関>との意味で使っていた。著書『遺言』(文春文庫)にある。

 岡田には監督として「動くが負け」という信念がある。同名の著書(幻冬舎新書)にはこうある。<戦況が膠着(こうちゃく)すればするほど動きたくなくなる性分><「相手はどうしてくるのか」と熟考しているほうが面白いから、ベンチでも静かに構え「こちらからは動かない」と腹に決めている>。

 この場面もまさに「動くが負け」だったわけだ。じっと戦況を見つめ、相手の動きを見ていた岡田が勝ったのである。

 乱調だった先発・青柳晃洋も含め勝ち越し点を与えなかった投手陣。切所での勝負で勝ったのである。 =敬称略=
 (編集委員)

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