【甲子園】裸足で逃げ出したい「満塁フルカウント」 深沢球審の光る「ゲームコントロール」

2024年08月12日 20:46

野球

【甲子園】裸足で逃げ出したい「満塁フルカウント」 深沢球審の光る「ゲームコントロール」
<熊本工・広陵>深沢球審(撮影・中辻 颯太) Photo By スポニチ
 【第106回全国高校野球選手権大会第5日・2回戦   広陵2―1熊本工  ( 2024年8月12日    甲子園 )】 【夏の甲子園 光るジャッジ】
 スポニチ紙面では高校野球取材班が大会での好プレーを紹介する「光る君の光(こう)プレー」が掲載されている。ネット版のスポニチアネックスでは夏の甲子園を担当する審判員の「光るジャッジ」を元NPB審判員でアマチュア野球担当記者の柳内遼平記者(33)が紹介する。

 広陵が逆転勝利を収め、中井哲之監督(62)が甲子園春夏通算40勝を挙げた。甲子園春夏通算40勝は木内幸男監督(取手二、常総学院)、阪口慶三監督(東邦、大垣日大)に並ぶ歴代7位となった。

 「プロ野球の1軍審判員って、なんでおじさんばかりなんですか?」と聞かれたことがある。「ゲームコントロールが大事だからです」と即答した。確かに判定の精度、規則理解度でいえば、ベテラン審判員と対抗できる力を持つ若手はいる。ただ「ゲームコントロール」する力は経験がモノを言う。

 「ゲームコントロール」と聞くと「審判員が判定で自分勝手に試合をつくる」とイメージする人もいるかもしれないが、真逆の意味だと理解してほしい。試合を円滑に進めるためのジャッジ、チームとの折衝。それが審判員の「ゲームコントロール」である。昔から野球界には「名前を知られていない審判員が名審判員」という格言がある。まさにゲームコントロールに長ける審判員が、それにあたるだろう。

 広陵が1点リードの9回に1死満塁のチャンスを迎えた。カウントは3ボール、2ストライク。球審は「いかに無心でできるか」がブレのないストライクゾーンを構築することにおいて重要。ただ、やはり人間なのでプレッシャーは感じる。満塁で3ボール、2ストライクとなると、ジャッジが1点を分けるだけに重圧を感じる。NPB審判員を見ても、満塁での3ボール2ストライクの時は通常よりもジャッジが早い審判員がいる。私のNPB審判員時代も「満塁3―2」は裸足で逃げ出したくなる気持ちだった。捕手が際どいボールを捕球して、両チームが自分の判定に全集中する「一瞬」は嫌な時間だった。

 話しを戻そう。広陵の攻撃で「満塁3―2」から内角低めいっぱいに見えた直球を打者は見送った。押し出しか、見逃し三振か――。ここで深沢球審はストライクと言い続けてきた高さを「ストライクスリー!」とジャッジ。見事に「満塁3―2」のプレッシャーに負けず己のゾーンを貫いた。感嘆の息が漏れたのは次の一球。次打者への初球はこれまた低めいっぱいへの直球だったが、これも「ストライク!」の判定。油断することなく、一貫したゾーンだった。

 この2球。「ゲームコントロール」において重い、重いジャッジだった。もし「満塁3―2」からボールにしていたら、胃がキリキリするような9回裏の攻防は生まれなかっただろう。もし「満塁3―2」の次の球をボールにしていたら。当然野球ファンには「さっきはストライクだったのに…」という引っかかりが生まれたのではないか。

 名試合に、隠れた名審判あり。深沢球審の「ゲームコントロール」がピカピカに光っていた。良い仕事をした審判員、たまには名前が出たっていいじゃないの。(元NPB審判員、アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

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