「今、武藤敬司は何を思うか、ということだけに徹してしゃべらせてもらえれば」古舘インタビュー<下>

2023年02月17日 17:31

格闘技

「今、武藤敬司は何を思うか、ということだけに徹してしゃべらせてもらえれば」古舘インタビュー<下>
質問に答える古舘伊知郎(撮影・会津 智海) Photo By スポニチ
 プロレスラー武藤敬司の引退試合となる2・21東京ドーム大会にフリーアナウンサー古舘伊知郎の来場が決定した。大会を独占生中継するABEMAが17日、発表した。古舘はノア初登場で、武藤敬司へのはなむけの言葉として自作の詩を朗読する。
 「古舘節」とプロレス実況にて絶大な人気を誇った古舘は故アントニオ猪木さんとも深い関わりがあり、1998年4月4日に開催されたアントニオ猪木引退試合では試合後に自作の詩を朗読した。猪木さんの弟子でもある武藤敬司の引退でも自作の詩を披露する古舘に単独インタビューし、武藤敬司の魅力、昭和プロレスへの思いなどを聞いた。

 ――最初の武藤敬司の印象は
 「あまりないんですよ。唯一の印象は、身長が1メートル88くらいあって、運動神経がいいのは道場のスパーリングで良く分かっていたけど、何だこの人、ヘビーなの、それともジュニアなのと思いました。自分の中には新日本プロレスは基本的にジュニアとヘビーと分けられていたし、ジュニアへビーから筋肉つけて太らせてヘビーにあがらせる流れの時期だった。ただ、そうやって思わせる時点ですごい存在感だったんだなと思います。その後気がついたら、もうスペースローンウルフでしたね」

 ――同期の中でもそれほど印象的にはなかった。
 「亡くなった橋本(真也)はものすごいインパクトがあったし、蝶野(正洋)さんもブラック蝶野になる前でもすごい体だった。船木さんは、山本小鉄さんに平手打ちのやり方を控え室から出た通路で教わっている姿とか印象があった。武藤さんだけは不思議にないんです。たぶん、明るさと軽み、へーへーと何かを超えていく明るさ、ちょっと宙に浮いている無重力状態があった。昭和のあの時代の暗さを引っ張っている人に印象を置いていたのかもしれない。武藤さんは当初の印象はと聞かれれば、あまり何かを引きずって出ていないというか演歌が入ってないんですよ。船木さん、蝶野さん、橋本さん、不安だとかいろんな思いはあったけど、武藤さんはどこにもウイークポイントがない。それが無重力に見えて印象に残ってなかったのかもしれない。あの時代の昭和プロレスって演歌が入っていて、悲しみがつきまとっていた。猪木さんにも佐山(サトル)さんにも。みんな引きずっていた」。

 ――なんか印象に残っていることは
 「新弟子の頃、大みそかになると、船木さんと2人きりで新日本の上野毛道場に残っていたことがあった。みんな田舎に帰る。さてどうするかとなって、船木さんが青森に帰ることを打ち明けると武藤さんは“オレ、山梨帰る気さらさらないから車で送ってやる”と。会社の車を勝手に使って道場を出て目黒駅まで船木さんを送っていった。船木さんからみれば、武藤さんは自分と違ってあっけらかんに見えて、とっても格好良く見えた。その話を自分のYouTubeの番組で武藤さんが出たときに真剣に聞いたんですよ。そしたら“ちょっと覚えないす。帰る気なかったんですよ田舎に”といなされた。このいなしがね、武藤敬司の秘けつの気持ちもして。こっちが精魂込めて聞いているのにインサイドワーク、天性のものがありますね。明るさで交わしていくというか。僕がアメリカで生まれたブルースのノリで話をしたいときにポップスで交わしてくるんですよ。あの人の余裕なんだよな。そこが面白いところなんですけど」

 ――古館さんのなかで武藤さんを認めるようになった時は
 「やっぱり高田延彦との1戦ですね。自分のプロレスをやるのがめちゃくちゃうまいのは知っている。あの当時の高田延彦とよくぞやりました、UWF流儀とアメリカンプロレス流儀がこんなにも交差するのか。すごいと思った。また猪木さんが、武藤さんから聞いたのは、あの高田戦はお互いに相手を認めて受けきって、ハイキック、ミドルも受けて高田さんも武藤流を受けて見事だった。って言ったら自分の感想言わないんです。“古舘さんには言いますけど、控え室に戻って猪木さんにしょっぱい試合してたな、お前と言われたんです”。見舞いに行ったときも猪木さんにはその真意を聞けなかったけど、たぶん猪木さんもいなしたでょうね。(武藤さんは)どこか猪木さんに似てますよね」

 ――武藤さんがファンに受けたのはどんなところですか
 「僕は昭和から一歩も出ていないし、平成から今の流れも良くしらない。プロレス女子も増えて、全く昔と試合が違うのもわかっている。いい悪いでなく。明らかに武藤敬司は昭和の残存をいっぱい名残り雪みたいに試合に出してますよ。だから、昭和を知っている若い人ももちろん、昭和をみじんも知らない人も、何か分からないけど面白いんですよ。ロックンロールのファンがブルースを知らなくても、ブルースの底流があるわけです。ブルースなくしてロックンロールは生まれていない。どっちがいい悪いではないけど、昭和の匂いを見事に武藤敬司はポージングを含めて出し続けている人ですよね。だから昭和のプロレスを知らない人からも幅広く支持されて、ドームで引退興行を打てるんじゃないですか」

  ――2月21日、武藤敬司は引退します。詩にどのような思いを込めますか。
 「あまり大上段に振りかぶってはいけないなと思っています。猪木さんの引退の時みたいに、ものすごく良く見ている思い入れとして私がやらせてもらう訳でなく、ごそっと飛んでいる訳ですからそういう人間がさもすべてを平成、令和まで見続けた人間の代表になったら大間違いと思います。そこは謙虚にならないといけません。昭和プロレスしか知りませんという前提で、武藤敬司、齢60にして今現役を退いていく、このとき今、武藤は何を思うか、ということだけに徹して想像の世界でしゃべらせてもらえれば本望だなと思っています。あまり武藤敬司の人生をパーっと触れていくのは大間違いかなと思います」

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