【元横綱稀勢の里コラム】私の生きざまを決めてくれた武藤敬司さんには感謝の気持ちしかありません

2023年03月08日 07:00

相撲

【元横綱稀勢の里コラム】私の生きざまを決めてくれた武藤敬司さんには感謝の気持ちしかありません
武藤敬司(撮影・篠原岳夫) Photo By スポニチ
 先日、東京ドームで行われたプロレスラー武藤敬司さんの引退試合を生観戦しました。幅広い知名度があった人気選手だけにリングを去るのがとても残念です。
 私にとって武藤敬司はプロレスの原点。どうしても最後を見届けたかったのが本音です。小学生の頃からプロレス少年。特に武藤敬司が大好きでした。派手な技、投げ技は少なく、基本はドラゴンスクリューとか足4の字固めなどオーソドックスなスタイル。それでも華があったことが子供心に新鮮でした。2002年1月に武藤が新日本を脱退、テレビで見る機会がなくなったことで、これで気持ち良く大相撲に入れると思いましたね(笑い)。

 ひとつのことを目標に定め、己を貫き通す。私の生きざまを決めてくれた武藤敬司には感謝の気持ちしかありません。ファンに感動や勇気を与える姿を見て“絶対的な技を習得したい”それがプロフェッショナルだと思いました。武藤は引退試合だからといって特別なことはしなかった。当然です。見せ場は決まっているし、いつも通りのルーティンをするだけですが、ファンはそれを見たいがためにドームに足を運んだと思います。

 競技の性質は全く異なっても、大相撲にも共通するものがあると思います。魁皇関が右上手を取った瞬間に館内がどっと沸く。私も土俵の中で四つに組んで、相手に参ったと言わせるような相撲を取りたい。その思い一筋に大相撲の世界に入り、そして横綱にまで上り詰めました。プロレス界同様、最近は自分の形を持った力士が少なくなりました。プロレスリングマスターが内藤哲也と作り上げた約28分間の作品を後輩らは心に刻んでほしいものです。

 数ある得意技のなかで一番のお気に入りは「低空ドロップキック」ですね。膝が元気だった頃はコーナーから派手に飛ぶなど足4の字固めへの布石となる技。大技を連発する現在のプロレスとは違って段階を踏んでフィニッシュに持っていくスタイルが大好きでした。足4の字固めであんなに会場を盛り上げる人は後にも先にもいませんね。

 昨年10月1日にアントニオ猪木さんが天国に旅立ち、武藤も引退。華が消えたマット界の行く末が心配ですが、ひょっこり現れてくれるのを期待しています。武藤は言いました。「プロレスはゴールのないマラソン」だと。(元横綱・稀勢の里)

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