【世界陸上】泉谷駿介の分岐点「どうしたら強くなれますか?」ファミレスでの涙 武相高恩師が証言

2023年08月22日 08:14

陸上

【世界陸上】泉谷駿介の分岐点「どうしたら強くなれますか?」ファミレスでの涙 武相高恩師が証言
男子110メートル障害決勝で懸命の走りを見せた泉谷(左)(AP) Photo By AP
 陸上世界選手権の男子110メートル障害の泉谷駿介(23=住友電工)が、日本人として初めて決勝の舞台に立ち、13秒19で5位入賞を果たした。準決勝でも1組を1位で通過(13秒16)。メダルには届かなかったが、世界レベルの実力をアピールした。
 その才能を開花させたのは、神奈川・武相高時代にさかのぼる。中学時代は平凡な高跳び選手。田中徳孝監督(60)は「ガリガリでしゃべらない子。目立たないレベル」と当時を振り返る。それでも「いろんなことに挑戦したいと興味があった」と田中監督。高跳びだけでなく、幅跳び、110メートル障害も始めることで非凡なバネが磨かれ、混成競技にも挑んだ。

 急成長を遂げた2年時、初めて八種競技で全国総体(岡山)の舞台に駒を進めた。2日間で競う競技の1日目は入賞圏内。「前半はほとんどベスト記録に近い状態」(田中監督)から、2日目は全国の雰囲気や暑さに消耗して14位まで順位を下げた。そこで泉谷は人目をはばからず号泣した。

 2016年7月30日。その夜、監督、チームメートを含め泉谷は4人でファミレスのココスで食事を取った。田中監督が「あれほどがっくりしているのを見たことがない」と言う泉谷は、半泣きでステーキセットを食べていた。「先生、どうしたら強くなれますか?」。そう聞いてきた泉谷は、必死に前を向こうとしていた。

 泉谷は大の野菜嫌い。ジャンクフードや菓子パンを主に食べていた。その日、田中監督は泉谷の家族に頭を下げた。「お母さんにお願いあるんです」と切り出すと、母からは「食事ですか?と」と返されたという。

 食事は競技者としての基本。その大前提に気づいた泉谷は、嫌いな野菜を多く摂取するようになった。田中監督が確認する毎日の練習日誌には「高級料亭で出されるような朝食」の内容が記されていた。練習もどんなにきつくても「100%でやりきった」と田中監督は証言する。

 泉谷も食事の改善について「やっぱり基本的なことをできないといけない。アスリート以前の問題だった」と振り返る。3年時に八種競技で全国制覇を成し遂げ、110メートル障害に専念する順大へ進む。そこから一気に世界最高峰のファイナリストまで突き進んだハードラーには、あの日の記憶が今も鮮明に刻まれている。(記者コラム・大和 弘明)

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