届かなかった11センチ…走り幅跳び・橋岡優輝が明かす東京五輪後の武者修行 金メダルも目の前に
2024年05月29日 05:00
陸上
東京五輪後、橋岡は海外に新天地を求めた。国内に固執せず、あえて多くの刺激に触れることで自らの感覚が研ぎ澄まされると考えた。「いろんなものを吸収し、視野を広げていく方がより強くなっていく道が鮮明に見える気がした」。19年世界選手権ドーハ大会後から思いは強くなり、22年11月にその計画が実現した。
門を叩いたのは、タンブルウィードTC。100メートル世界選手権2大会連続入賞のサニブラウンや22年世界選手権銅メダルのブロメル(米国)らが所属し、昨年から東京五輪金のジェイコブス(イタリア)らが加わった短距離の超有名チームだ。「(サニブラウン)ハキームが強くなっているのを間近で感じていた。どんなコーチかも詳しく聞くことができたので“じゃあ大丈夫か”と」。フロリダを拠点に、パリを目指す道が定まった。
合流すると、いきなりショッキングな出来事があった。同チームのレイナ・レイダー・コーチからは、いきなりこう言われた。「おまえの助走はジョギングだ」「スプリンターになれ」――。走り幅跳びにおいて、助走スピードは飛距離に直結する。確かな踏み切り技術を持つ橋岡は徹底的なスピード強化に着手した。その作業は今も続いている。
練習は週に6日。短い距離では20メートル走から、数十秒を最大出力で走り続ける時間走まで多様なスプリント練習が組まれる。最初は悪戦苦闘し「チームの最下位を走っていました。女性選手にも置いていかれました。女性といっても、トップ選手なのでもちろん速いんですけど」と振り返る。走力アップを実感する今でも「練習で勝つ時はないです。やっぱり、あいつら速いです」。超一流選手の背中を追いかける日々だった。
フロリダでは同年代で数々の世界大会を共に戦ったサニブラウンと共同生活を送る。朝昼の食事を共有スペースで一緒に取る以外は別行動。「一緒にいる時はたわいもないことを話している。それ以外は、おのおの部屋にこもっています」。互いを干渉せず、程よい距離感での生活は心地よいという。
助走スピードが進化途上の23年は、もがく日々が続いた。6月の日本選手権では3連覇を逃す2位。8月の世界選手権も予選敗退に終わった。「走りを学び直す中で、走りがぐちゃぐちゃになったり、ケガをしたり…凄い苦労しました」。それでも、9月のダイヤモンドリーグファイナルでは8メートル15を跳び、日本男子で歴代最高の3位表彰台。爆発的なスピードの操縦は簡単ではないが、成長の一端も感じ取った。
100メートル(自己ベスト10秒53)などの数値での証拠こそないが、米国拠点前の22年7月の世界選手権から20歩の助走距離は8メートルほど短くなった。「単純にスピードが速くなったんです」。上半身はサイズアップし、ふくらはぎ周りの筋肉がより発達してスプリンター体形に。「見た目もだいぶ変わりました。日本に帰るとよく言われます」。武者修行の成果を物語っている。
パリ五輪が間近に迫っている。日本人選手では1936年ベルリン大会で銅メダルを獲得した田島直人以来となる同種目の五輪メダルへ、橋岡が目指すのは日本記録8メートル40を上回る8メートル50。東京五輪金メダル相当の同記録をパリでも跳べれば、頂点まで届く可能性は高い。「いける手応えはある。最後の詰めの部分をつかめれば、一気にトントンと新しい感覚を得ることができる」。磨き続けた助走で、着地する結末はいかに。答えは、花の都の大空にある。
《6月日本選手権Vでパリ切符》
○…今季、橋岡は3月に米国での競技会で8メートル28をマーク。パリ五輪参加標準記録8メートル27を突破し、6月末の日本選手権(新潟)で優勝すれば2大会連続の五輪切符を得る。8メートル28は今季世界7位の好記録。今季世界最高は23年世界選手権準優勝のピノックで8メートル40、同2位は東京五輪金のテントグルで8メートル36と続く。日本勢2番手は津波響樹(大塚製薬)の7メートル99で今季世界58位となっている。
【橋岡優輝はこんな選手】
☆生まれとサイズ 1999年(平11)1月23日生まれ、埼玉県出身の25歳。1メートル83、77キロ。
☆競技歴 中学時代は四種競技をメインに走り高跳びなどにも取り組んだ。東京・八王子学園八王子高から走り幅跳びを専門に。日大を経て、富士通所属。
☆家族 父・利行さんは棒高跳びで、母・直美さんは100メートル障害、三段跳びで元日本記録保持者の陸上一家。サッカー東京五輪代表のDF橋岡大樹(ルートン)はいとこ。
☆主な実績 日本選手権は17年からの3連覇など5度制覇。18年U20世界選手権優勝。世界選手権は19年8位入賞、22年も決勝に進んで10位。自己ベストは21年に出した8メートル36(日本歴代2位)。
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