ダルビッシュが語る「選手と指導者」 強制練習なら「絶対、絶対に今ここにいない」
2018年06月06日 07:00
野球
「甲子園は良いところはいっぱいあります。人々の記憶に残るし、その先プロに行けないような選手には一生の思い出、自慢になる。そういう意味で良いと思うんですけど、ただ、ネガティブな部分も出てくるので」
――ネガティブな部分、というのは。
「最近もアメフットであったように、コーチの言うことに一切逆らえないとか。投げろと言われたら、痛くても投げないといけないとか。そういうことが昔からある。痛めつけてしまう可能性…甲子園を機に再起不能になった投手も何人もいるわけですから」
――2年生だった03年夏、腰痛や右すねの痛みを抱えながら決勝まで戦った。振り返ってみて、「投げない」とは言えなかったか。
「言えるけど、自分的に投げたかったというのがありました。僕と若生(正広)監督の関係は凄く特殊だった。“嫌”というのは僕は言えていた。凄く仲が良かったので」
――特殊な関係。
「若生監督が僕に何かを強制することは3年間、一切なかった。他の選手には厳しかったけど、僕は全く違っていたから。中学では練習を強制されてというか、普通の中学生でした。高校に入って“自由にしていい”と言われていたので、練習も出ませんでした。何もやらないし、やらないのも選択肢の一つ。体も痛いし成長途中なのに、あんなにむちゃくちゃ走ったりしたら、絶対、絶対に今ここ(メジャーリーグ)にいない。僕は特殊な環境で育ったから、今こうやってできている」
――投手として成長するための練習は。
「本当に何もしてないです。高校でポール間以上の距離を走ったことがない。キャッチボールも2週間しないとかもありました。甲子園を目指す強豪校ではいないんじゃないですか、そういう人」
――、一人で取り組んでいたことは。
「雑誌の『ターザン』を見て、簡単なトレーニングみたいなのを部屋でやったり。今考えたら本当にしょぼいトレーニングですけどね。このサプリメントをぶどうジュースと一緒に飲んだらいいらしい、と聞いて試したり。他の人と違うことはやっていました」
――高校で練習していないのに、多彩な変化球を操った。
「それに関しては中学生からできました。なにせ、投げるのが凄く好きだったから。中学に入って2年までは外野か一塁で、投手をやらせてもらえなかった。“おまえは肘が下がっていてシュート回転するから”という、訳の分からない理由です。投げたい思いがたまっていた。家にいても天井に向けて、いろんな変化球を投げた。曲げ方や、回転のかけ方を考えながら」
――自分で考えることが重要だと。
「自分で考える力は必要です。出されたものを消費するのに一生懸命すぎると、その中でいかに休むか、楽に生きるか…となる。僕は常に楽な状態だったから、成長するためのことを考えた。練習の選択肢は選手が自分で選択してやっていくべきだと思う。(二刀流で独自の準備をするエンゼルスの)大谷のことも含め、いろんな形があってもいいとみんなが思わないと。指導者がこうあるべきと押し付けると、型にはまった大人になっていく」
――今、米国で野球をしているからこそ感じることもある。
「米国には凄い才能のある高校生がいっぱいいる。日本の高校生の中に入れば全く練習していない部類で、他のスポーツにも取り組んだりしているのに。ああいうのを見ると、日本は本来もっと凄くなる選手が伸びていない可能性もある。僕や田中(ヤンキース)や前田(ドジャース)はメジャーに来られたけど、才能でいえば同世代で一番なのはたぶん僕らじゃない。野球をしていなかったり、野球をしていてもきつい練習でつぶされたり、そういう人がいっぱいいたと思うから」
――高校野球はどうなっていくべきか。
「時代を見て変化させていかないと。悪いところはなるべくなくして、良いところは残していくことを考える。高野連にもっと建設的なことを考える人が入って、いろんな提案をしてもらって、議論を重ねていかないと駄目でしょう」
――高校生の故障防止に関しては。
「選手はプレーしたいものだし、若いから分からず頑張る。きちんと制限を設けて、その中で思い切り頑張らせるようにすればいい。最初から“制限があります”と言われれば、選手はそこで我慢するしかない。例えば大会規定は2020年の春からこうなる、と事前に作って伝えれば、みんな納得して参加すると思います」 (聞き手・奥田秀樹通信員)
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