【内田雅也の追球】ここ一番での「ギャンブル」

2024年02月04日 08:00

野球

【内田雅也の追球】ここ一番での「ギャンブル」
「ゴロゴー」の練習で指導する岡田監督(右奥、左は赤星氏)(撮影・岸 良祐) Photo By スポニチ
 昨年の日本シリーズ第5戦(甲子園)は劇的な展開だった。
 阪神は0―2の8回裏、1点を返し、なお1死二、三塁。打席に森下翔太。オリックスは宇田川優希を投入してきた。

 相手内野陣は前進。三塁走者は代走の切り札、植田海。この時、監督・岡田彰布は三塁走者に「ゴロゴー」の指示を出していた。勝負である。

 結果はカウント2ボール2ストライクから低めの難しい球をライナーではじき返し、左中間突破の逆転三塁打となった。

 ベンチで生還した2人の走者を迎え入れる時、岡田の顔はくしゃくしゃだった。泣いていた。

 試合後、森下の殊勲打をたたえた後、岡田はこんな風に話した。感激した後の照れ隠しのような言い方だった。「あそこはあんなええ当たり打たんでええよ。良すぎたよな、当たり、おーん」

 描いていたのはゴロでの植田の好スタート、快足好走での同点生還だった。「いやいや、追い込まれたからなあ。とにかく転がせ思うた。ゴロゴーやったからな。バットに当てろ思とったよ」

 森下の殊勲は動かないが、ここ一番での三塁走者「ゴロゴー」の重要性を痛感する場面だった。

 さて、キャンプ3日目、臨時コーチ・赤星憲広(本紙評論家)を招いて行われた走塁教室。三塁走者のゴロゴー(ギャンブルスタート)での本塁突入が行われていた。

 実は昨年春のキャンプでは行っていない練習である。ヘッドコーチ・平田勝男によれば、岡田は「そんなの要らんよ」と話していた。「(打球が外野に)抜けてから(スタート)でええんよ」

 自ら「マイナス思考」と言い、確実性や堅実を重んじる。競馬など賭け事は好きだが、野球でのギャンブルは嫌う。

 ところが、昨年11月の秋季キャンプ(高知・安芸)では「ゴロゴー」を練習に採り入れた。「学生時代にやった。“早稲田戦法”や」。早大伝統の走塁を思い返した。

 三塁走者が後方ファウル地域に離れてリードする傾向に「後ろ過ぎる。もっとラインに近く、5センチでも10センチでも短く本塁に向かえ。今は(捕手の)ブロックもないんだから」。昨秋は若手主体だが、今春は主力にも「ゴロゴー」を練習させた。

 日本シリーズでの「ここ一番」を経て、ギャンブルも行う。そんな進化が見た。 =敬称略= (編集委員)

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