【内田雅也の追球】阪神の背番号「3」に、明日への活力と希望を見た

2024年05月04日 08:00

野球

【内田雅也の追球】阪神の背番号「3」に、明日への活力と希望を見た
<巨・神>9回、二飛に倒れ最後の打者となり悔しがる阪神・大山(左)(撮影・沢田 明徳) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神5ー8巨人 ( 2024年5月3日    東京D )】 巨人の創設90周年記念特別試合「長嶋茂雄DAY」だった。長嶋を知らないファンも多くなった。選手で現役時代を知る者はむろん皆無、首脳陣でも数えるほどだ。
 長嶋を説明するのは簡単ではない。記録で圧倒的な数字を残したわけではない。ただし、人びとの記憶に残る、数々の劇的シーンを演じてきた。だからこそ「ミスタープロ野球」である。

 サトウハチローが『長嶋茂雄を讃(たた)える詩』を書いている。<疲れきった時/どうしても筆が進まなくなった時/いらいらした時/すべてのものがいやになった時/ボクはいつでも/長嶋茂雄のことを思い浮かべる/長嶋茂雄はやっているのだ/長嶋茂雄はいつでもやっているのだ>

 球場での活躍の裏、人には見せない努力に思いをはせる。

 高度成長期、懸命に働いた人びとは家に帰り、テレビをつけると長嶋がいた。ここぞという場面で快打を放ち、時には三振し天を仰いだ。奮闘する「3」の姿に明日への活力をもらっていた。

 阪神でいま「3」を背負う大山悠輔は今季初の2本塁打を放った。明るく派手な長嶋と寡黙な大山は好対照だが<いつもやっている>という陰の努力は共通している。だから阪神ファンは不振でも応援を惜しまない。

 一発同点の9回表、フルスイングした打球が凡飛となり最後の打者となった。悔しさをこらえ、力走する「3」に明日への希望を見た。

 監督・岡田彰布が「そら、長嶋茂雄DAYは門別よ」と独特の言い回しで予告していた19歳・門別啓人の今季初先発は苦い結果に終わった。

 1、2回裏とも2死無走者から失点した。坂本勇人左前先制打はフォーク、長野久義左前適時打は直球、ともに低めだったが、球威を欠いていた。岡田は「腕振って大胆にいかな。置きにいって……」と不満だった。

 長嶋のプロデビュー戦(1958年4月5日)は4打席4三振だった。それでも牛耳った金田正一は、いくら三振してもフルスイングしてくる長嶋の将来をおそれた。

 ひるまず、向かっていく姿勢である。初回立ち上がりから11球連続の直球で中飛、三振を奪った、あの姿勢である。

 長嶋は「野球は人生そのものだ」を座右の銘とする。野球も人生も山あり谷ありである。転んだのならば、立ち上がればいい。 =敬称略=
 (編集委員)

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