驚くべきMDアンダーセンがんセンター、3つの注目ポイント 米国最高のがん研究拠点 生駒成彦医師

2024年08月26日 05:00

社会

驚くべきMDアンダーセンがんセンター、3つの注目ポイント 米国最高のがん研究拠点 生駒成彦医師
MDアンダーソンがんセンターは米国のがん治療・研究をリードしています Photo By 提供写真
 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。今回から、テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポートです。
 【医療の中心地ヒューストン】
 今週から連載を担当することになりました生駒成彦です。ロボット手術を専門とする腫瘍外科医(すい臓がん・胃がん)の視点から、米国での最先端の医療情報をお届けしたいと思います。今回は、私の働いているMDアンダーソンがんセンター(MDA)について紹介します。

 テキサス州ヒューストンと聞いて、皆さま何を思い浮かべるでしょうか?暑い気候、松井稼頭央が在籍していた球団アストロズ、カウボーイとロデオ、石油や天然ガス、「こちら、ヒューストン!」のNASAジョンソン宇宙センター…。実は全米最大のメディカルセンターのある、医療の中心地なのです。

 21の病院が集結しているヒューストン・メディカルセンターの一角を成し、“世界最高のがんセンター”をビジョンに掲げるMDAは、綿花の販売会社を経営していた大富豪、Monroe Dunaway Anderson(モンロー・ダナウェイ・アンダーソン)さんが設立した慈善財団の出資により、テキサス大学が1941年にヒューストンに設立したがん専門病院です。現在の場所へは1954年に移転しました。余談ですが、財団設立は会社の節税のためだったというところが、資本主義を地で行く米国らしいところです。

 【病院の広告やCMも頻繁に】
 私は2011年に外科医として渡米し、2015年からMDAで働いています。日本との違いに驚いたことはたくさんありますが、今日は3点紹介します。1つ目は「U.S. News&World Report」という雑誌が米国病院ランキングを発表していることです。MDAは「がん治療部門」で、過去35年常に上位2位以内をキープし、過去10年間は1位を独占。その影響もあってか、世界中から年間18万人もの患者さんがMDAに来院されます。

 米国各地の病院は、そのように影響力の強いランキングを改善するために専門の部署を作って努力しています。日本ではほとんど見かけない病院の広告やコマーシャルも米国では多く見られます。患者さんが集まってくれないと病院の経営も成り立ちません。米国では医療の分野でも“宣伝”はとても重要です。

 2つ目は、豊富な研究資金です。世知辛い話ですが、資金のない分野に科学の発展はありません。MDAはがん治療の研究でも最先端でリードしていて、年間12億ドル(1700億円超)の研究資金を使って、1500以上の臨床研究が現在進行形で行われています。米食品医薬品局(FDA)から認可されるがん治療新薬の約6割がMDAでの臨床研究を基にしているという事実からも、いかに影響力のあるがんセンターかということが分かると思います。

 【コロナ禍にも州100億円献金】
 その研究資金を支えているのは、非常に多くの献金です。MDAの収益のなんと約3分の2が、病院経営ではなく州・個人からの献金と言われています。コロナ禍に診療活動を制限しなくてはならなかった時も、早急に州から100億円単位の補助金が出され、病院の経済面が担保されていました。米国民の献金への高い意識と、州を挙げた力強いサポートが、MDAでの最先端のがん治療研究を後押ししています。そしてまた、最新の臨床研究に参加するために、患者さんが集まってくるのです。

 3つ目は、入院日数の短さです。私の専門のすい臓の手術の一つに「すい頭十二指腸切除(PD)」という術式があります。日本ではPDの後は3~4週間の入院治療をすることが一般的ですが、MDAでは平均5~6日で退院となります。

 【米“完治”より早い帰宅好む】これには医療保険制度の違いや、国民の文化的な違いが大いに関係しています。日本ではある程度入院が長い方が病院の経営が安定しますが、米国では保険料の支払いは“1入院あたり”ですので、退院が早い方がコストが抑えられ、病床の回転率も上がり収益が上がります。また、日本の患者さんは“完治”まで入院加療を好みますが、米国の患者さんは一日でも早く帰りたいと思うのが一般的です。

 760病床しかないMDAで実に年間2万件を超える手術をこなしているのは、日本では考えられません。我々外科医もロボット手術を含めた低侵襲手術を通して、患者さんの一日も早い社会復帰をお手伝いしています。

 ヒューストンは全米4位の人口を誇る大都市で、洗練された都会でありながら“テキサスサイズ”の広大な土地もあります。MDAのあるメディカルセンターの周りにも土地が残っており、今も最新のリサーチセンターが建築されています。進化し続ける全米最高のがんセンターと、そこから発信されていく最新のがん医療情報をお伝えしていこうと思っています。

 ◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。11年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大学医学部で外科研修。15年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。18年から同センターですい・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。

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