【第100回ラグビー早慶戦記念企画】早大OB廣野眞一氏インタビュー(2)名伯楽・大西鉄之祐氏の教え

2023年11月22日 10:01

ラグビー

【第100回ラグビー早慶戦記念企画】早大OB廣野眞一氏インタビュー(2)名伯楽・大西鉄之祐氏の教え
<ラグビー早慶戦100回記念企画>集英社の新刊をバックにパスを投げる早大ラグビー部OBの広野氏(撮影・篠原岳夫) Photo By スポニチ
 ラグビーの早慶戦は11月23日に東京・国立競技場で、節目の100回目の対戦を迎える。日本ラグビー界の黎明期から連綿と続いてきた伝統の一戦は、一つの試合や順位争いを超越した、ライバル校同士のプライドを懸けた戦いの歴史だった。スポニチでは記念すべき試合を前に、両校のOBをインタビュー。早大からは1978年度卒で早慶戦に3度出場した廣野眞一氏(67=集英社社長)が登場し、当時の思い出、母校やラグビーへの思いを語った。(取材・構成 阿部 令)
 ――廣野さんにとって、「慶応」とはどんな存在なのでしょうか。

 「負けたくないですね。どんなシーンでも負けたくない相手です。特にラグビーでは負けたくない。試合で彼らの顔を見ると、こいつらには負けないぞという思いが沸々と湧いてくる存在です」

 ――そもそもなぜ早稲田に入学されたのでしょうか。

 「元々、漠然と大学は早稲田に行きたいなという思いがありました。ラグビーは高校2年で始め、大学に合格しても続ける気は全然ありませんでした。ところが高3の日本選手権(75年1月)で早稲田と近鉄が対戦して、早稲田が負けましたが、もの凄い試合をしました。この試合を見て、男ならばやらないといけないなと思い、入部しました。当時の新聞で印象に残っているのが、作家の野坂昭如さんの観戦記で、バックスタンドが揺れて見えた(感涙した)、と書いていた。そのくらい、凄い試合でした。ただ、入部して1週間もせずに、何と愚かな判断をしたんだと後悔しましたね(笑い)。本当に練習がきつくて、明日辞めよう、明後日辞めよう、ああ今週は持ったな、という感じでしたから」

 ――当時50人が入部し、1年の夏合宿のころには15人になっていたとのことですが、廣野さんが続けられた理由は何でしょうか。

 「辞める決断ができない、勇気がなかったからでしょうね。辞めます、という勇気がなかったし、決断力がなかった。まあ、続けて良かったと思います」

 ――早稲田での練習はどのようなものでしたか。

 「何も分からずに入部して、本当に毎日が新鮮でした。当時は監督やコーチは会社員でほとんど土日しか見てもらえなかったのですが、上級生から教わることが新鮮でした。高校の時は一つのグラウンドをいろんな部活が使っていましたが、大学はラグビー部が専用で使って、線もきっちり引いてある。例えばタッチを踏んだらやり直し、キックでもダイレクトならやり直し。ゴールラインを切るまでは、絶対に力を緩めてはいけない。常に試合を想定して練習することが新鮮でしたし、実際の試合でも生きました」

 ――影響を受けた指導者はいますか。

 「たくさんの指導者や先輩に教わりましたが、その中でも大西鉄之祐さんは、うまいことを言う人だなと思いました。(在学中は)監督ではありませんでしたが、頻繁にグラウンドに来ては、いろんな話しをしてくれました。凄い理論家で、たくさんの理論を教えてくれるのに、最後の最後は理屈じゃないと言われる。闘争とはそういうものではない、理論だけでは闘争に勝てない、ということを教えてくれました。当時はグラウンドにやぐらがあって、パッと見ると寝ている(笑い)。ところが目を覚ますと、下りてきて誰かを叱っている。話す時はタコの足みたいに両手を使うから、我々は“タコヤン”と呼んでいました」

 ――早大ラグビー部や、ラグビーそのものを通じて養ったことが、経営者として生きている点はありますか。

 「よく聞かれますが会社経営とスポーツは別物だと思っています。もちろんスポーツ、特にラグビーをやって得たものは、大きいものがあります。例えば敢闘精神という言葉は、凄く好きになりました。あとは自己犠牲の精神。ラグビーでは自分のプレーが終わっても、ボールは生きていく。自分のパス一つ、タックル一つで、チーム全体の状況を良くしていきます。絶対に試合を諦めない精神もそうです。シーズンを通してもそうですし、1試合1試合に関してもそうで、敢闘精神を大事にしています。何よりラグビーの仲間が財産です。大学は関係なく、ラグビーをやっている人は、人間関係の前段階抜きに、すんなり仲良くなれる。以前、英国のパブで仲間と飲んでいたところ、その仲間がギョウザ耳だったため、現地のラグビー経験者に“おまえ、ラグビーをやっていたのか”と声を掛けられ、すぐに打ち解けるなんてこともありました」

 ――ラグビー界や社会の有り様が大きく変化する中、100回目を迎える早慶戦の未来に期待することはありますか。

 「やはり注目される試合であってほしいですね。互いに弱ければ、誰も注目してくれない。毎年毎年、選手本人たちが、真剣勝負をして、力いっぱい出し切ってと、そういう試合を繰り返してほしいと思います。その積み重ねが、100年後の早慶戦につながると思います」

 ――最後に節目の早慶戦を戦う現役選手たちにエールをお願いします。

 「まずはどんなことがあっても、勝ちにこだわってほしいと思います。勝ちにこだわるのが早稲田のラグビー。早慶戦をステップにチーム力はさらに上がっていくと思いますが、現時点でのベストを出してほしいと思います」

 ◇廣野 眞一(ひろの・しんいち)1956年(昭31)9月2日生まれ、大阪府出身の67歳。東淀川高2年からラグビーを始め、早大ではセンター、ウイングとして活躍。79年4月に集英社入社。各部署を渡り歩いた後、14年8月に取締役、19年8月に専務取締役就任。20年8月から同社社長。

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