【内田雅也の追球】温情と覚悟、そして成長 秋の収穫を見込んでいた岡田采配

2023年04月13日 08:00

野球

【内田雅也の追球】温情と覚悟、そして成長 秋の収穫を見込んでいた岡田采配
<巨・神>好投の村上を出迎える岡田監督(左)(撮影・西川祐介) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神2―1巨人 ( 2023年4月12日    東京D )】 阪神監督・岡田彰布は勝利後のインタビューで「頭の中でずっと、完全試合いけてたかなあ、という思いが残っている」と話した。正直な思いだったろう。
 7回まで1人の走者も許さず、完全試合を進行させていた先発・村上頌樹を代えたのだ。8回表の打席で代打を送った。

 その裏、2番手に起用した石井大智が代わり端の初球、岡本和真に同点弾を浴びた。采配は全くの裏目と出ていた。激痛も悔恨もあったろう。

 基本的に岡田は選手にやさしい。力以上に無理を強いたりせず、結果が残り、自信をつけさせる采配、用兵に努める。岡田なりの温情である。

 2年ぶりプロ3度目先発の村上は「6回までいってくれれば御の字」だった。何しろ今季の村上は当初中継ぎでローテーションの谷間で巡ってきた先発機会だった。

 「ローテーションピッチャーなら投げさせていたかもしれん。佐々木朗希ならな」。調整はしたが急造先発で「6回で代えようとも思った」。84球だったが7回で限界とみていたわけだ。

 安打1本出てから交代という声もあろうが「3点あれば続投だろうけど」と、記録が途切れてから崩れゆく幾多の前例を思い浮かべていた。

 村上にプロ初勝利をつけ、新セットアッパーの石井がホールド、湯浅京己がセーブで締める「3人で完全試合」を描いていた。そうなれば、実績のない若手がより自信を持ち成長すると先を見据えていた。長いシーズン、残り133試合、秋の収穫を見込んでいた。

 思い出すのは2007年の日本シリーズ第5戦である。完全試合を進行させていた中日・山井大介を8回で降板させた監督・落合博満の采配について、当時『記者の目』で<夢を奪う采配>と批判的に書いた。当時も阪神監督だった岡田は「そら代えるやろ」と落合を支持していた。勝てば日本一で「胴上げ投手に代える。ウチなら藤川球児でいく」と話していた。

 夢もロマンも抱き、情も厚い岡田だが、勝利や優勝の前では厳しい。信念の采配だが、むろん責任は自分が負う覚悟はできている。

 降板後の村上がベンチで笑顔でいたのは救いだった。被弾後の石井が奪った3者連続三振、決勝点足場の四球を選んだ時の木浪聖也のガッツポーズ、近本光司の殊勲打……と一丸で勝てた。チームとして成長できた一戦となった。=敬称略=(編集委員)

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