被災地でも拍手 仮設住宅から静かに見守る
2012年07月29日 06:00
五輪
震災から1年以上。被災地の復興は思うように進んでいない。仙台市太白区の仮設団地に住む此田勝男さん(74)は「先祖から受け継いだ物は箸一膳も残ってない。収入もないし、本当は五輪どころではないが、ほかにすることもない」とこぼした。
ただ、日本代表の活躍に光を求める被災者は多い。同市若林区の自宅が津波で全壊し、同じ仮設団地に住む中沢松次郎さん(80)と妻美佐子さん(73)は「なでしこジャパンの活躍が楽しみ」と声を弾ませた。
一方、スタンドに手を振りながら歩く選手たちも、被災地への思いを胸に秘めている。旗手を務めた女子レスリングの吉田沙保里(29)は今年1月、岩手県立宮古商業高レスリング部の道場で、部員や地元クラブの小学生ら約40人を指導。「笑顔を見せたらいけないのでは」と悩みつつ、子どもたちの笑顔に逆に励まされ、気がつくと自分も笑っていた。「心のつかえが取れた。大変な災害があった日本に金メダルで元気を」と誓っている。
陸上ハンマー投げの室伏広治(37)は昨年6月、宮城県石巻市立門脇中を訪ね「一日体育教師」を務めた。その後、韓国での世界選手権で優勝し、生徒たちが「あきらめない」と寄せ書きした日の丸を競技場で広げた。「自分だけのためにしてきた競技に、今は被災地から注目されているという特別な力が加わった」という。開会式には参加しなかったが、被災地からの応援に「言葉で表せないほど感謝している」という。
卓球女子の福原愛(23)は昨年5月、津波被害を受けた仙台市立東六郷小に卓球台やラケットを贈り、指導もした。同校の子供たちは今年5月、五輪での活躍を願う応援歌をつくり、全校児童で歌う姿を収めたDVDを送った。福原は「もっと頑張らなきゃという気持ちになる」と、子供たちへの思いを胸に世界に挑む。