泉谷駿介 チーターの動きで越えろ世界の壁 “ニワカ”でも分かる世界陸上110メートル障害の面白さ

2023年08月18日 04:44

陸上

泉谷駿介 チーターの動きで越えろ世界の壁 “ニワカ”でも分かる世界陸上110メートル障害の面白さ
陸上男子110メートル障害で日本記録保持者の泉谷駿介(右) Photo By スポニチ
 【陸上・世界選手権 ( 2023年8月19日    ハンガリー・ブダペスト )】 陸上の世界選手権が19日からハンガリー・ブダペストで開幕する。男子110メートル障害で日本記録保持者の泉谷駿介(23=住友電工)は、日本勢初の決勝進出を狙う。陸上をあまり知らない“ニワカ”読者にも分かるように、元陸上ハードル選手で現在はスプリントコーチの秋本真吾氏(41)が解説。数多くのプロ野球選手、Jリーガーから子供まで幅広く指導するスプリントコーチの観点から、同種目の難しさや泉谷の非凡な能力を説明した。(取材・構成 大和 弘明)
 まず、泉谷選手が出した日本記録13秒04は一般の方はどれだけ凄いのかイメージしにくいと思います。全種目の記録が得点換算される世界陸連の「スコアリングテーブル」で他の種目と比較すると、実は100メートルなら9秒88相当です。100メートルの日本記録が山縣亮太選手の9秒95なので、物凄い価値だと分かります。大舞台のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会でも13秒06で準優勝したことからもメダル獲得に近いことは間違いないです。

 そもそも、110メートル障害の高さは106・7センチです。いざハードルと対面すると、とてつもない圧力があります。私が教えるトップアスリートたちが見た時に“マジですか?”と言葉が漏れるほど。その高さの障害を越えるには、一般人であれば高く上に跳ぶスーパーマリオのようなジャンプになってしまいます。対照的に、泉谷選手のような一流ハードラーは頭の位置が変わらない。トップクラスであればあるほど、頭の上下動はなくなり、時間のロスが少ないのです。

 9・14メートルの間隔で全10台を跳び越えるためのテクニックも必要です。一般的に男子選手が着地してから次の踏み切りまでに要す距離は5・30メートルから5・40メートルとなります。利き足での踏み切り動作を続けるためにハードル間は原則3歩。大前提として足が速くないと、そのリズムで押し切れません。しかも106・7センチの高さのハードルを跳び越えながらなので、相当の技術が求められます。

 そこで泉谷選手の特長を当てはめましょう。まず、彼は100メートルを10秒3台で走るスピードがあります。最終10台目を越えてからのスプリント力は世界トップクラス。もし最後に横一線になったら勝つことができる。110メートル障害のファイナリストで100メートルを走ったとしても3番以内に入る走力はあると思います。

 さらに、高校時代は八種競技で日本一になったという土台があります。走り幅跳びでは8メートルを跳びます。さまざまな種目を経験して、いろんな体の使い方を覚えながら、最終的に110メートル障害に絞り込んだのではないでしょうか。世界的に高身長の選手が多い中で、泉谷選手は1メートル75と身長が高くありません。それを補う身体操作能力が抜群なのです。

 技術的進歩もあり、110メートル障害のトレンドとしてスタートから1台目までの歩数を8歩ではなく7歩で通過する選手が多くなりました。もちろん高身長の方が有利ですが、泉谷選手は腕の使い方、スタートの飛び出し角度などを工夫して7歩に対応しています。ハードリングでもダイナミックな腕の振り方や全身を使いながら抜き足の膝を前に持ってくる動作はチーターのような躍動感ある動物のような動きをします。

 どんなスポーツでもそうですが、絶対無理だろうと思う記録や結果に対して、誰かが壁を越えると一気に新しい世界が開けることがあります。泉谷選手が12秒台を出したら、次々と選手が13秒の壁を破っていくと思います。今回の結果は多くのハードラーに希望を与える。日本の競技レベルを変えてくれると期待しています。(スプリントコーチ)

 ◇秋本 真吾(あきもと・しんご)1982年(昭57)4月7日生まれ、福島県出身の41歳。国際武道大大学院卒。2012年まで400メートル障害選手として活躍し、引退後はスプリントコーチとしてJ2いわきFC、プロ野球では西武、阪神のスプリントコーチを務める。著書に「一流アスリートがこぞって実践する 最強の走り方」(徳間書店)など。妻は元スピードスケート五輪代表の大菅小百合さん。1メートル83。

 ≪日本勢初の決勝進出はノルマ「さすがに行かないとヤバい」≫男子110メートル障害は20日に予選、21日に準決勝と決勝が行われる。泉谷は17日、会見に臨み「現地に入りだんだんと気持ちが上がっている。決勝進出が第一目標。自分の走りができるように準決勝から気持ちを入れたい」と意気込んだ。

 6月の日本選手権で自身の日本記録を更新。13秒04は今季世界5位の好記録で、その後の欧州転戦ではダイヤモンドリーグのローザンヌ大会でいきなり優勝し、ロンドン大会では世界選手権2連覇中のホロウェーと接戦を演じた。今大会に向けた日本での調整も順調に消化。21年東京五輪、昨年の世界選手権と2度も準決勝で敗退しただけに、「決勝の舞台の景色を見て来年につなげたい」と日本勢史上初の決勝進出をノルマに掲げ、来夏のパリ五輪に向けて弾みをつける。

 ≪高山3度目の舞台へ≫7月のアジア選手権王者の高山峻野(28=ゼンリン)は3度目の世界選手権の舞台となる。泉谷が日本新記録を出した日本選手権では中盤まで先行。19年ドーハ大会で準決勝に進んだ実力者は「世界陸上にピークを合わせられれば準決勝でも良い位置で戦うことができる」と語る。日本選手権3位、アジア選手権5位の横地大雅(22=チームSSP)は初出場となる。

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