効率よく疲労回復できる眠り方「濃縮睡眠」とは&脳疲労を解消する方法【総まとめ】
2023年11月20日 09:00
「睡眠時間は1日〇時間」とよく聞きますが、つい寝る時間が遅くなってしまい、結局いつも寝不足。健康のために確保したい睡眠時間と、実際の睡眠時間には1時間以上の差があるという調査結果も(エマ・スリープ、全薬工業調べ)。または睡眠時間を確保できないとお悩みの人へ、注目の考え方があります。
睡眠セラピストの松本美栄さんが考案した「濃縮睡眠」というメソッドです。睡眠を濃縮する? 一体、どんなメソッドなのでしょうか。
インタビュー前後編+αを、まとめて一挙公開!
──さっそくですが、「濃縮睡眠」について教えてください。どんなメソッドでしょうか?
「濃縮睡眠」とは私が作った言葉で、入眠から2時間の睡眠の質を高めるという効率の良い睡眠法を指します。
睡眠セラピストの松本美栄さん
──なぜ入眠2時間以内に質の高い睡眠をとる必要があるのでしょうか。
2つ理由があります。
ひとつは、入眠から2時間、深い睡眠をとることで、効率よく成長ホルモンが分泌する点にあります。そのタイミングで出る分泌量は、1日の約50%になると言われているので、濃縮睡眠では入眠2時間を大切にしています。
もうひとつは、グリンパティックシステムと呼ばれる、深い睡眠をとったときに脳に溜まった老廃物を効率よく排除してくれる機能がよく働くという点です。
この2つの効果を得るために、入眠時から深い睡眠をとることが大切であるとしています。
──量より質というイメージですね。ちなみに、長く寝ても問題はないのでしょうか? 10時間以上など、長時間寝ることで考えられるデメリットとは。
ロングスリーパーと呼ばれる体質であれば、長く寝ることがその人のベストな睡眠時間なのでしょう。しかし、そうでない場合は、長く寝過ぎるとデメリットが多くなります。
深い睡眠がとれていないために長時間の睡眠が必要となり、ずっと横たわっているので体の負担が増えてしまいます。そして、頭がぼーっとして集中力が下がる、だるい、代謝の低下などのほか、早死にリスクも高まるというデータもあります。
4時間睡眠より10時間睡眠のほうが死亡リスクが高い
データによると、7時間くらいがちょうどいい睡眠時間とされており、そこから睡眠時間が短くなるにつれて死亡リスクは高くなっていきます。しかし、4時間睡眠より死亡リスクが高いのは、実は10時間睡眠です。
体調不良などで長時間睡眠をとる例を含めたとしても、長時間睡眠のほうが死亡リスクは高い結果になっています。
ちなみに休日の寝だめもよくありません。体内リズムが乱れ、余計に睡眠の質が下がる原因になります。
──昔はよく10時間以上寝ていたのですが、今からリカバリーできるでしょうか?
若いときは睡眠ホルモン「メラトニン」の量も豊富なので、いくらでも寝れちゃうんです。なので、年を取ってメラトニン量も少ない状態で長時間寝ることとは、少し事情が違ってきます。
──いよいよ「濃縮睡眠」のやり方です。しっかりと効果を得るため、どんなことを行うとよいでしょうか。ポイントを教えてください。
3つのポイントがあります。「脳疲労の解消」、「血流の改善」、そして「睡眠環境の整理」です。
ポイント1 脳疲労の解消
まず脳疲労の解消について。ここがもっとも大切です。
睡眠状態が良くないと脳疲労が溜まりやすくなり、脳疲労が溜まってくると睡眠の質も低下していきます。負のスパイラルです。そのため、睡眠の質をよくする行動と、脳疲労を解消していく行動の両方を行う必要があります。
具体的には、頭をマッサージする“頭蓋マッサージ”です。頭蓋マッサージで脳疲労が解消されると、頬骨が上がる、目がぱっちりするなど見た目にも表れてきます。
あとは、“眼精疲労の解消”、脳の中の疲れをケアする“マインドフルネス”を提唱しています。
ポイント2 血流の改善
次に、血流の改善。肩甲骨ストレッチによる姿勢のケアがおすすめです。背中の筋肉や肩甲骨まわりをゆるめていきます。
睡眠ホルモンのメラトニンを分泌するための栄養を摂るのもおすすめしています。タンパク質(トリプトファン)、マグネシウム、鉄、ビタミンB6、抗酸化食品です。
ポイント3 睡眠環境の整理
寝る前の“ブルーライト”は睡眠へのリスクが大きいです。そして“枕”。あとは“ほこり”も睡眠の質に影響しますので、床掃除をおすすめしています。
──上記3つ以外にも、行うとよいことはありますか?
朝のウォーキングや、寝る前90分前の入浴、ストレスケアとして“感謝ワーク”を行うこと、それからパワーナップ(仮眠)でしょうか。起床時間を揃えるなどもおすすめしています。
──いま教えて頂いたことを続けてみて、「濃縮睡眠」ができているか、どのように確認するとよいでしょうか。チェック方法を教えてください。
分かりやすいのは睡眠アプリでの計測です。入眠や覚醒のタイミング、回数など睡眠状態をくわしく計測していきましょう。
朝の目覚めの状態と日中の眠さも目安のひとつです。
──睡眠アプリのデータと体感、どちらを信じればよいでしょうか? 寝起きが良くなかったときでもデータ上では良い数値が出ていることがあります。
基本的には体感を重視してよいのかなと思います。そのときの睡眠ログはよくても、溜まっている疲れはとれていないという可能性があります。
朝眠いというのはさまざまな理由が考えられるので一概には言えないのですが、少なくとも起床後スッキリせず眠気が続くというのは、そのときの睡眠に問題があったというより、そもそも脳疲労が溜まっていて、まだまだ解消できていないという状態かもしれません。
逆に、睡眠データはあまり良くなかったけれど、めちゃくちゃスッキリ起きることができたときは、それだけで1日の幸福度が上がるという研究結果もありますよ。
──ショートスリーパーの人は「濃縮睡眠」ができているということでしょうか? 違いがあれば教えてください。
私の定義では、ショートスリーパーは遺伝子的に短い睡眠時間が適している人を指します。全体における割合は5%程度とも言われていますね。生まれ持った特異体質なので、「ショートスリーパーになる」というのは難しいのではないかと考えています。
私の提唱する「濃縮睡眠」は、質の良い睡眠をとることを基本としています。睡眠負債を抱えている、いわゆる質の高い睡眠をとれていない人が実践することで、短い睡眠時間ですっきり起床できたり、逆に今まであまり眠れなかった人はぐっすり眠れるようになるなど、自分にとって最適な睡眠が行えるようになります。
──ところで……夜10時に眠ると成長ホルモンが分泌されやすいという「睡眠のゴールデンタイム説(シンデレラタイム)」は、なぜ生まれたのでしょうか? 近年まで信じられてきました。
はっきりと分かっているわけではないのですが、こうじゃないかと言われている説はあります。
1991年ごろに行われた睡眠と成長ホルモンの研究において、睡眠ホルモンの分泌量と就寝時間をチェックしたとき、研究対象者の入眠時間が22時ぐらいで、24時ごろに成長ホルモンが出ているという研究結果があります。
実は他の時間に寝ても成長ホルモンは分泌されていたのですが、当時のメディアが一部を切り取って伝えてしまったため、睡眠のゴールデンタイムとか、シンデレラタイムのような説が広まったのではないかと考えられます。
もちろん、その後の研究でも、何時に寝たとしても成長ホルモンは分泌されるという結果が出ています。
後半では、「濃縮睡眠」でもっとも重要な、脳疲労を解消する眠り方について聞いていきます。
脳疲労を回復させる方法は「睡眠」にあり!専門家が教える“脳の疲れをとる眠り方”
前半では、入眠から2時間の睡眠の質を高めることで効率よく疲労回復できる「濃縮睡眠」というメソッドを教えてもらいました。後編では、「濃縮睡眠」でとくに大切な脳疲労解消にフォーカス。
脳疲労が溜まっていると睡眠の質は低下し、睡眠の質が悪いと脳疲労が溜まりやすくなる。この負のスパイラル、どのようにして抜け出すとよいのでしょうか。引き続き、睡眠セラピストの松本美栄さんに伺います。
──最近よく聞く「脳疲労」。どんな状態を指すのでしょうか? また、脳疲労が溜まるとどんな症状が現れてくるのでしょうか。
脳疲労とは、活性酸素によって脳が酸化し、それによって脳の機能が低下している状態を指します。
脳疲労が溜まると、認知機能が低下します。そうなると物事に対する意欲が出なくなります。うつ病や認知症などにも見られる症状ですね。好きなことは何とかできるけれど、そのほかに対するやる気が出なくなる。あとは、記憶力や集中力、判断力の低下も見られます。
コミュニケーション能力も低下します。人とのトラブルが出やすくなったり、言葉の受け止め方が敏感になったり、思考がネガティブになりやすいです。逆に、イライラしたりカッとなりやすいパターンもあります。
体の症状としては、倦怠感が出やすくなります。
食の変化も起きますね。食べ過ぎ、飲み過ぎなどです。食べ物のチョイスも変わってきますよ。刺激物、脂っこいもの、辛いもの、しょっぱいもの、高カロリーなものなどが食べたくなります。
──現代人は脳疲労が溜まりやすいと聞きますが、どんなことが脳疲労の原因につながるのでしょうか。
やはり睡眠不足が挙げられます。寝ないと脳は回復しないので、脳疲労が溜まります。それからストレスですね。活性酸素が溜まると脳も酸化します。
栄養不足もよくありません。脳の機能が低下してしまい、活性酸素が発生しやすくなります。添加物の多いもの(加工食品やお菓子、高カロリーなもの、インスタント食品を多く摂取し続けると栄養不足に陥り、脳疲労が溜まりやすくなります。
あとは運動不足です。血流が悪くなります。
冷え、肩こり、長時間のスマホやデスクワークなどによる姿勢の崩れも血流悪化や眼精疲労を招き、脳に十分な血液が届かなくなって脳疲労につながります。
まだまだある! 脳疲労の原因
情報過多も原因のひとつですね。テレビやネットなどを見続けて脳がパンクしてしまう。
現代社会は脳疲労の原因だらけです。なにもしないと溜まっていく一方だと思ってください。
──脳疲労があまり溜まっていない人はいるのでしょうか?
はい、いると思います。意識してケアをしている人です。
私のクライアントさんを例に出すと、経営者や優秀なビジネスマンの方は睡眠を大切にしており、健康への意識が高い傾向にあります。そういうことが仕事の生産性につながると意識していて、マインド面も勉強しています。きちんとケアを行っている人は、脳疲労が溜まりにくいと言えるでしょう。
あとは、自然をとり入れる生活や、自然豊かな環境に身を置いている人などでしょうか。
こんな症状があれば脳疲労状態かも! 脳が疲れているサイン
脳が疲れているサインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 刺激物や甘いものが無性に食べたくなったとき
- 暴飲暴食してしまうとき
- アルコールの量が増えたとき
- 忘れ物やケアレスミスが増えた、続くとき
- いらいらしやすいとき
- やる気がでないとき
- 集中力が続かないとき
- もの忘れしやすいとき(記憶力が低下)
- 考えがまとまりにくいとき
- 趣味をやらなくなったとき
──脳疲労が溜まっていても、睡眠で取り除けますか?
はい、取り除けます。脳疲労が溜まる原因のひとつが睡眠不足なので、質の良い睡眠を継続してとることで脳疲労も解消できると思います。
──睡眠以外で脳疲労を解消する方法はありますか? たとえば食べ物やマッサージなど。
脳を酸化させないことがポイントなので、抗酸化力が高い食品を摂るのはひとつの手です。
おすすめは「黒にんにく」。ポリフェノールによる抗酸化力が高いですし、ニンニク自体に脳疲労に効果のある栄養成分が入っています。しかも発酵させると抗酸化力が倍増します。
ほかには緑黄色野菜、とくにパプリカ。果物ではカシスがおすすめです。ポリフェノール、ビタミンCが含まれています。
頭蓋マッサージや眼精疲労ケア
頭蓋マッサージもおすすめです。大体の人は頭がガチガチで固まっているので、頭蓋マッサージを行うと「頭が軽い!」と驚かれます。
帽子が大きく感じる、頭がスッキリして軽くなったなどの変化を感じる人もたくさんいます。眼精疲労のマッサージや、目元を温めるのもいいですよ。
マインドフルネスで思考を「今ここ」へ
あとは、脳疲労が溜まっている=頭の中が散らかっている状態なので、マインドフルネスで「いまこの瞬間」の思考や感情、体の状態に意識を向けることで、自分自身を受け入れていくというのもおすすめです。
運動やストレッチをすること、血流をよくすることも大切ですね。
──MELOS的には、脳疲労を解消できる運動は気になるポイントです。
おすすめの運動は「朝のウォーキング」です。睡眠・脳疲労・メンタルケアにトリプルで効きます。
──通勤で歩くのはちょっと違いますか? 通勤時間をウォーキングに当てるといいかなと思ったのですが。
それでも構いませんが、 “太陽の光を浴びること”と“リズム運動”が、体内リズムを整え、幸せホルモンであるセロトニン分泌に有効ですので、できれば起床後1時間以内にテンポよく歩くのがベストです。
そして、気分よく歩くというのも重要です。「これから仕事か~行きたくないな」「人多いな~」というモチベーションではなく、自然豊かな景色を眺めながらスニーカーで快活に歩くという感じであればいいかなと思います。
──週に何回ほど運動をすればよいでしょうか。
運動をすると、脳にとって良い分泌物が出ます。それを促進するという目的であれば、週に3~4回、1時間くらいで、ダンスなどのようなさまざまな動きがある運動を行うのが効果的です。
寝る前のスマホいじり、止める方法は?
寝る前のスマホ(ブルーライト)は睡眠の質を下げる。分かっていても、ベッドでのスマホいじりをどうしても止められない。そんな現代人は多いのでは。
エマ・スリープと全薬工業の調査によると、「睡眠時間が確保できない理由」の1位は「寝る前についついスマホを触ってしまう」という結果も出ています。
松本さんは、この問題についての見解と対策について以下のように述べています。
寝る前もスマホが手放せない時点で「すでに依存症」である
スマホが手放せない時点で、脳疲労が溜まっている状態と言えます。スマホ依存ですね。アルコールやニコチンのように中毒性が高く、ドーパミン依存と捉えることができます。
スマホ自体が依存性を高めるような設計となっているので、手放せないのは脳疲労が高まっている状態であり、意志が弱いだけの問題ではないと考えています。
そうはいっても寝る前のブルーライトは目の刺激になり、脳を興奮させ、なかなか鎮静化されないので、深い睡眠にはなりにくいわけです。そのため成長ホルモンも分泌されにくく、疲れもとれにくい。
こういうことをしっかり認識するだけで、寝る前になんとなくスマホを触るという行為を止めてみる人もいます。
やってみると睡眠の深さや目覚めも違うので、実感してさらに控える人もいます。
ブルーライトカットを意識する、画面から距離をとるのもアリ
それ以外では、ブルーライトカットでしょうか。効果に関してはいろいろな説がありますが、ブルーライトカットシールやメガネ、端末の設定を変えるとよいでしょう。
距離を離してみるのもひとつの手です。テレビでも、少し距離をとって視聴するとブルーライトの影響を抑えることができます。
少しずつ、できる範囲内から試していくのがよい
極端に変更するのも勇気がいるので、ちょっとずつ変えていくのが良いかと思います。
布団の中には持ち込まないとか、明かりを消したらスマホを触るのを止める、寝る30分前からは止めるなど。
そうしていくうちにどこかで脳疲労の解消が実感できるので、行動にもさらに変化が出てくるかと思います。
プロフィール
睡眠デトックス・姿勢美矯正サロン プロスパービューティー
松本美栄(まつもと・みえ)
睡眠セラピスト。睡眠デトックス・姿勢美矯正サロン「プロスパービューティー」オーナー。一般社団法人 濃縮睡眠協会 代表理事。
「睡眠の変化から人生の豊かさをより感じられる人を増やす」ことを目標にサロンでの施術・カウンセリングや座学の提供のほか、企業や消防署などでの講演やセミナー、メディアへの出演も行っており、これまでに延べ6000人以上の睡眠に関する悩みを解決。2020年からはオンラインでの勉強会を開催しており、参加者は延べ2000人を超える。
著書に、『誰でも簡単に疲れない体が手に入る 濃縮睡眠Rメソッド』(かんき出版)、『パフォーマンスを劇的に変える!快眠習慣』(自由国民社)がある。
<Edit:編集部>
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