「おやじ」と過ごした濃密な2年間、伝えたいソフトB藤本前監督への感謝 唯一の心残りは…

2023年10月30日 08:00

野球

「おやじ」と過ごした濃密な2年間、伝えたいソフトB藤本前監督への感謝 唯一の心残りは…
10月16日のCSファーストステージ第3戦、スタンドへのあいさつを終え、今宮(右)と並んでグラウンドを後にするソフトバンク・藤本監督 Photo By スポニチ
 勝手に「おやじ」と呼ばせていただいていた。人間味があって、かなり面白かった。身だしなみから、うるさかった。「無精ひげが嫌いやねん。身だしなみ、ちゃんとせいや」。毎日、T字カミソリで自慢のヒゲを剃るのを日課としていた。鼻下にたくわえた自慢の口ヒゲは、ハサミで長さを整える徹底ぶりだった。記者の剃り残しから観察されていた。
 ソフトバンク藤本博史監督が、今季限りで退任した。2年間、担当しながら、いじられ続けた。リーグ優勝、日本一となった際に、自慢のヒゲを剃ると公言していたが断髪式ならぬ「断髭(そ)式」は開催されなかった。ツルツルの肌を見ることは、できなかった。それでも、感謝しかない。正方形のような四角い頭に、丸い、でかい背中を見て、すべてを吸収させてもらった。

 「おい、マヨネーズが付いとるぞ」。サンドイッチを食べた直後のペイペイドームでの試合前取材。慌てて食べたのが、ばれた。ちなみに辛子マヨネーズだった。わざと、大勢のメディアがいる前で言ってきた。試合前の緊迫感を自ら笑いに変えていた。これぞ、大阪人が得意とする緊張と緩和。私生活中、特にナイトジョブでのトークで、全パクリさせてもらった。

 緻密に相手球団のデータを調べる以外の、すき間時間は長風呂と韓流ドラマ鑑賞でストレス解消にあてていた。夫人の影響もあって、はまっていた。どんな題名を言っても「あ、知ってる。もう見た」。デーゲームの日は朝5時頃に起床。長い朝風呂に入りつつ、試合の策を練っていた。

 「きょう、何時起きですか?」。漫才でも大事な、話のツカミで使った。聞かれたら、きっちりと答える。その後に「野球のこと、聞けや」。対話のキャッチボールも、大切にしてくれた。相手投手対策などの堅苦しい問いは、苦手だった。最後は面白くないメディアの取材が嫌になってきていた。

 22年が2位、今季23年が3位。2年連続でAクラス入りも、いずれもクライマックスシリーズで敗退した。22年はリーグ最終戦で敗戦。オリックスが勝ってV逸。優勝紙面の予定稿はできあがっていた。痛恨だった。なぜか、アメージングな結末となる。ただ、それも魅力だった。

 今季は10月16日、記者の誕生日に終戦を迎えた。ZOZOマリンで2位ロッテとのクライマックスシリーズ・ファーストステージで敗退した。壮絶に散った。同日の夜に、まさかの退任リリースが出た。何とも言えない空気が千葉・幕張に深夜まで流れ続けた。だから、今後も忘れることはない。

 「おやじ」は、今後も球団に残る予定だという。重低音ボイスで、アドバイザー的なことをするらしい。まずは、ゆっくりと体を休めてほしい。だが、11月8日に60歳となる男は違った。最後までボケた。「俺は、60歳やない。40歳になったばかりや。まだまだ若いで」。就任1年目の開幕戦の監督紹介で、屈強ボディーの男が担ぐ神輿(みこし)に乗っての登場を承諾した寛容さ。2年間すべてがネタで、勝負の世界で洞察する身として勉強となった。おやじに何と言われようが、改めて感謝しかない。(記者コラム・井上満夫)

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