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【鷹論】小久保監督が中村晃に命じたバント 乗り越えると信じたからこそ、試練を与えた

2024年10月01日 05:00

野球

【鷹論】小久保監督が中村晃に命じたバント 乗り越えると信じたからこそ、試練を与えた
優勝トロフィーを手にしたソフトバンク・小久保監督 Photo By スポニチ
 リーグ制覇を決めた夜。日付が変わる寸前に始まった勝利のうたげ。小久保監督は何を語るのか、興味があった。「騒ぎたいのは分かるけど、少々お待ちください」とお祭りムードを落ち着かせる。振り返ったのはシーズンではない。優勝を決めたこの一戦のことだ。
 「今日のポイントというか、今年からスタメンが少なかった中村晃に初めてバントを出してドキドキ。失敗したら流れが変わるかなと思ったら、見事成功。その後、柳町、絶対打てよと。絶対(中村)晃のバントを無駄にするなと思って、あそこで勝負あった」

 23日オリックス戦(京セラドーム)で4―2とリードして迎えた5回無死一、二塁だった。「5番・DH」の中村晃がバントを成功させて、この回、決定的な3点が入った。

 今季、指揮官は山川のFA移籍もあり、23年まで一塁で4年連続ゴールデングラブ賞のベテランをレギュラーから外した。新しい仕事は代打。環境の変化に対応できず、成績は低迷した。ただ、信頼は揺るがない。

 9月中旬に不動の5番だった近藤が右足首負傷で離脱。最初は6番・正木をあてがったが、結果が出ない。小久保監督は18日の日本ハム戦から中村晃を据えた。こちらもまた最初は結果が出ず、批判の矛先が選手にも向くことがあった。22日楽天戦の試合前、小久保監督は「どっしりしといてくれたらいい」と語りかけた。若手の5番であれば重圧に負け、力を発揮できないこともある。百戦錬磨の男ならば受け止める経験があると信じた一手なのだろう。

 ダイエー時代の99年、前半戦で絶不調だった「4番・小久保」は交代を直訴したが、王監督は首を縦に振らなかった。のちに聞いた理由は「代わりの選手が崩れるのが嫌だった」。チームで調子を崩す選手を複数出すことを避ける措置でもあり、王ダイエーはその年に初優勝を果たした。

 25年前にプレッシャーを一身に背負った小久保監督は、今回、中村晃に背負わせた。試練は乗り越えられる者にしか与えられない。四半世紀の時を超え、このチームに芽吹き、育った伝統の一端を見た気がした。
 (福浦 健太郎)

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