ヨキッチの“数字”を削り取った八村の奮闘 直接対決の第4Qの得点は71%減

2023年05月18日 08:36

バスケット

ヨキッチの“数字”を削り取った八村の奮闘 直接対決の第4Qの得点は71%減
初戦の第4Q、八村のマークに苦しんだナゲッツのヨキッチ(AP) Photo By AP
 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】16日にコロラド州デンバーで行われたNBA西地区決勝第1戦の第4Qをもう一度、見直してみた。
 このクオーターでレイカーズの八村塁(25)は第3Q終盤に続いて最初からコートにいた。そして1分51秒、リーグ屈指のセンターでもあるナゲッツのニコラ・ヨキッチ(28)がベンチから戻ってくる。5分から6分にかけて、ナゲッツのポゼッションだった2回のプレーだけは、それまでマッチアップしていたアンソニー・デービス(30)がヨキッチをマークしているが、それ以外は八村がヨキッチに密着していた。

 203センチ、104キロの八村に対して、過去2シーズン連続でMVPとなっているヨキッチは211センチ、129キロ。身長で8センチ、体重で25キロのハンデがあった。登録上のポジションがセンターではなくパワーフォワード(PF) のデービス(208センチ、115キロ)が現時点でのレイカーズの陣容からすれば“ヨキッチ・ストッパー”であるはずだが、デービスには「得点を稼ぐ」という大切な仕事があり(第1戦は40得点)、トップの位置でのスクリーンや3点シュートをこなすだけでなく、ローポストまでを行き交うヨキッチにディフェンスで付き合っているとスタミナ面で“削られる”だけでなく、反則数も増えるのは目に見えていたので、ダービン・ハム監督(49)は守備面で最も辛く、最もリスクのある仕事をデービスから八村に回したように見えた。

 第3Qまで13得点を記録していた八村は第4Qで4得点。しかし“ヨキッチ・ストッパー”の重責がなければもっと得点は増えていたかもしれない、成功率が54・8%に跳ね上がっている3点シュートも第2Qに1本成功。息を整えられる余裕があれば、21点差を3点差まで追い上げた最終局面でレイカーズの中で最もシューティングの精度が高かったのは八村だったはずだ。

 ヨキッチは第1戦で42分出場してフィールドゴール(FG)を17本中12本(うち3点シュートは3本すべて成功)決めて34得点。21リバウンド(うちオフェンス6)と14アシストもマークして今ポストシーズン6回目のトリプルダブルを達成している。

 しかし八村とマッチアップした第4Q(出場10分9秒)ではフリースローで3得点を記録しているがそれは残り1分を切ってから。放った2本のシュートは失敗していた。このクオーターのFG成功は0でリバウンドとアシストも2つだけ。第3Q終了段階ですでに31得点、19リバウンド、12アシストでトリプルダブルを達成していたヨキッチにとって、第4Qは苦しみもがく時間帯だった。

 ヨキッチの第3Qまでのクオーターごとの各部門の平均成績と第4Qを比較すると、得点は71%減、リバウンドは68%減、アシストは50%減。トリプルダブルを平然とやってのけるリーグ屈指のセンターであり、オールラウンダーでもあるヨキッチのこんな“姿”を誰が予想しただろうか?

 残り1分17秒でのプレーは印象的だった。ヨキッチはトップの位置でジャマール・マーリー(26)にボールを手渡したあとインサイドへロール。マーリーは正面からジャンプシュートを放った。

 シュートは失敗。このときリングにより近い位置にいたのはヨキッチだった。しかし八村はボールがリングに届く前に、右肩をヨキッチ背後から体の前に入れてポジションを入れ替えてボックスアウト。ヨキッチからオフェンス・リバウンドを確保できるスペースを削り取っていた。

 相手の大黒柱に対し、異なるポジションの選手、あるいは体格の違う選手が、ディフェンスのスペシャリストとしてマークするのはプレーオフでは珍しいことではない。1993年のファイナルではサンズのポイントガード(PG)、ケビン・ジョンソン(185センチ)がブルズのシューティングガード(SG)、マイケル・ジョーダン(198センチ)に対して密着。そもそもブルズ時代にファイナル制覇に貢献しているデニス・ロッドマンは198センチながらセンター役を務めて、相手チームのビッグマンとゴール下で激しいバトルを繰り広げていた。

 しかしまさかその役目をこの大舞台で八村が請け負うとは思わなかった。コートにはデービスだけでなく、206センチ、113キロのレブロン・ジェームズ(38)もいたにもかかわらず、“ヨキッチ・ストッパー”は背番号28。腰を低くして、ヨキッチの軸足の可動範囲を狭めるスタンスを取っていたように見えた。そこが他のチームのセンターたちとは違っていた。

 ナゲッツと1回戦で対戦したティンバーウルブスにはルディー・ゴベア(216センチ)と、15年ドラフトの全体トップ指名選手でもあるカールアンソニー・タウンズ(213センチ)といった2人のセンターがいて、地区準決勝で顔を合わせたサンズにはタウンズ同様にドラフト全体トップ指名選手(18年)のディアンドレ・エイトン(213センチ)がいた。エイトンは故障で最終戦となった第6戦を欠場してしまったが、それでも代わって先発したのはセンター登録のジョック・ランデール(211センチ)だった。

 ビッグマン不在のレイカーズ。第2戦以降、八村が再び第4Qでヨキッチとマッチアップするのかどうかはわからないが、第1戦で見せた成果はハム監督も実感していることだろう。つまりもし第7シードのチームが初めてファイナルに進出するようなことになれば「陰のMVPは八村ですよ…」という指揮官のささやきが私の耳元で聞こえている。物事が立て続けにうまくいくとは思わないが、他のチームの〝ドラ1センター〟ができなかった仕事を八村はやってのけた。少なくともそう感じさせてくれた試合だった。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった20238年の東京マラソンは5時間35分で完走。

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