『もう走れない』と思ったとき、どうする?プロランナー・松村幸栄選手から学ぶマラソンHOW TO

2023年06月29日 12:00

『もう走れない』と思ったとき、どうする?プロランナー・松村幸栄選手から学ぶマラソンHOW TO
マラソン界において、速さと持久力、モチベーションを追求することは決して容易な道ではありません。しかし、その壁を乗り越え、数々のレースで結果を残す実業団ランナー・松村幸栄選手の存在が注目を集めています。 今回、編集部は松村 […]

マラソン界において、速さと持久力、モチベーションを追求することは決して容易な道ではありません。しかし、その壁を乗り越え、数々のレースで結果を残す実業団ランナー・松村幸栄選手の存在が注目を集めています。

今回、編集部は松村幸栄さんにインタビューを行い、彼女が実施しているトレーニングや食事管理、コンディショニング、そして“走ること”で起きる困難の乗り越え方を語っていただきました。


[プロフィール]
松村幸栄(まつむら・ゆきえ)
コモディイイダ陸上競技部所属。裾野市スポーツ観光大使、NIKE RUNNING COACH。小学校4年生の時に、裾野陸上教室に入り陸上を始める。中学校時代は、全国都道府県駅伝静岡県代表として3区区間3位の成績を収め、須磨学園高等学校2年生の時には、全国高校駅伝で2位入賞、3年生では優勝し、2年連続アンカーを務める。高校卒業後は豊田自動織機に入社し、故小出義雄監督の指導を4年間受け、東日本実業団駅伝で優勝した。チームの拠点が愛知県に移った後、中日本実業団駅伝でも優勝を果たす。東日本・中日本共にアンカーを務めた。2021年9月、コモディイイダ陸上競技部に入部し現役実業団ランナーとして活躍中。
Instagram:https://instagram.com/yukie__nagata?igshid=MjEwN2IyYWYwYw==

プロランナーはどんな練習をしている?

──普段、どのようなトレーニングプログラムを組んでいますか?

「目指すレースとかによって変わってきますが、まずしっかりと生活スケジュールを決めます。この月はこういうトレーニングをするという目標を決めたら、1週間ごとにさらに細かくスケジュールを立てます。たとえば走り込むという目標月の場合は、1週間ずつ仕事やプライベートの予定をスケジュール表に出して、そこから1週間で〇キロ走るならこの日は2回走れるとか、この日は1回だけ走れるというふうに、スケジュールを組み立てます。私は夫がコーチを兼ねているので、彼にメニューを見てもらっています。週に2回頑張る『ポイント練習』っていうのを入れていて、どういう練習にするか相談した上で、その週の走行距離や走るペースを決めています」(松村選手)

──ウォームアップとクールダウンはどのようなものを行っていますか?

「体の動きをよくする『連動性トレーニング』をしっかりと行ってから走るようにしています。まずはストレッチから始めて、そこから連動性トレーニング、そしてジョギングに入っていきます。クールダウンは足首まわりとか上半身、ふくらはぎのストレッチなどを簡単にしていますが、メインに置いているのは寝る前のセルフマッサージやストレッチですね。体を整えてから寝ています」(松村選手)

──アスリート選手は運動神経がいいから大半の運動ができそうというイメージがありますが、実はあまり得意ではない運動はありますか。

「好きな運動はもちろんランニングですが、得意ではないのが、リズム系ダンスとか球技系にある『横の動き』ですね。もしかすると、長距離選手はリズム音痴な人が多い傾向にあるかもしれません。競技の特性上、同じ動きや単調な動きが多いので、そういう部分で苦手意識が出てくるのかもしれません」(松村選手)

──今年の夏もすごく暑いみたいですが、おすすめの熱中症対策はありますか。

「もし可能であれば、走る練習の一部をランニングマシンに変えてみるのはおすすめです。やっぱり室内は涼しいので、そういうのを取り入れないと夏は厳しいですよね。ロード(道)を走るときは、周回コースにするなど、定期的に水分補給ができる環境づくりが大事だと思います。水分補給のために少し休憩しても練習効果は下がらないので、とにかく給水環境を整えるのがポイントかなと」(松村選手)

──汗対策、暑さ対策はどのようにしていますか?

「ジョギングに行くときはウエストポーチをつけて、いつでも水分補給できるようにボトルは持って走るようにしています。帽子の中に氷も入れますね。走っている間に溶けてきてキモチイイですよ。あとは、体を暑さに慣らすのも大事です。暑い環境下でいきなり1時間走るんじゃなくて、まずは30分ぐらいから始めるなどです」(松村選手)

──たまに、ボトルやポーチ、リュックを持たずに街ランしている人を見かけます。まさに生身ひとつで走っている。水分補給はどうしているのかなと不思議に思っています。

「途中、自販機やコンビニで買って、水分補給しているのだと思います。夏に水分補給しないで走れる人がいたらむしろ教えて欲しいです(笑)昔、皇居エリアのランニングステーションで働いていたのですが、やっぱり1~2回くらいは救急車で運ばれる人がいるんですよ。水分補給しないで走って倒れちゃって。そうなる前に、合間の給水を意識することが大切です」(松村選手)

プロランナーはどんな食生活を送っている?

──レース前の食生活で意識していることは。

「脂っこいものや消化に良くないものは摂らないようにしています。サバや鮭などがすごい好きなんですけれど、内臓疲労を起こしやすいので、脂っこい魚類は控えています。あとは甘いもの、お酒もとらないようにしています」(松村選手)

──そういった食生活は、レースのどれくらい前ぐらいから意識されていますか。

「とくに意識するのはレースの1週間前ですね。体重を増やさないように、余分な負担を掛けないように。でも年間を通して、体重が増えないよう毎日の食事には気をつけています」(松村選手)

──ちなみに前回のレース前日は、どのような食事をとられていましたか。

「エネルギーになるように炭水化物をやや多めに取るようにして、生野菜や生ものは摂らないようにしていました」(松村選手)

──では、レースが終わった後は、どんな食生活を送ることが多いですか?

「マラソンレース後は内臓に負担がかかっているので、冷たいものと脂っこいものはとらないようにしています」(松村選手)

──脂っこいものと聞くと、お肉のアブラや揚げ物をイメージしがちですが、魚のアブラも意識しているのですね。

「人によるとは思いますが、私の場合はそうですね。前は朝練後の朝食でサバを食べていたのですが、仕事に出勤したとき消化不良を起こしてしまって。もちろん魚のせいだけじゃなくて、練習の疲労で内臓が疲れているタイミングだったというのもありますが、そういう経験をしてしまったので、私自身は控えるようにしています」(松村選手)

──補食、ドリンクで好んでとり入れているものはありますか?

「『MAURTEN(モルテン)※』を取り入れています。レースによってはスペシャルドリンクを置けなくて、自分が飲みたいドリンクを置けない場合もあるので、MAURTENをレースの前日からスタート前にかけて積極的に飲んでいます。エネルギー補給になるので」(松村選手)

※MAURTEN(モルテン):スポーツ栄養分野で注目を集めるスウェーデン生まれのブランド。その革新的なドリンクやジェルは、エリウド・キプチョゲ選手をはじめマラソン界のトップアスリートたちに愛用されている。

──年間を通して体重管理には気をつけていると伺いましたが、少し太ってきたなと感じたとき、どのような調整を行っていますか?

「体重計とか数字を見るとものすごく気にしちゃうので、私のチェック方法は『お尻をつまむ』にしています。お尻をつまんでプヨプヨしてたなと思ったら、ご飯の量を少しだけ減らします。炭水化物は大事なので抜いたりはしません。あとは糖分の入っている飲み物は極力とらないようにし、水分量も極端に減らさないよう気をつけつつ調整します」(松村選手)

──逆に、体重が落ちすぎ、痩せすぎたことはありますか?

「痩せすぎちゃったこともあるようです。以前、SNSに走っている写真を載せたとき、長く応援してくれてる人たちから『ちょっとカリカリじゃない?』という声をいただいたり。あとは通っている治療院の先生とかに、『マラソン前に落としすぎだからもう少し食べたほうがいい』って言われたら、炭水化物を少し増やします。自分自身はいい感じで締まってきたなと思ったんですけれど、やり過ぎたときは周りがストップをかけてくれました」(松村選手)

──いまいち食欲がないとき、おすすめの食べ物は?

「私の場合、お茶漬けです。内臓が疲れたときは豚汁を作ります。野菜もしっかりとれるじゃないですか。生野菜は食べるのがしんどかったり、お腹を冷やしちゃうときもあるので、豚汁の中に具をたくさん入れて食べるようにしています」(松村選手)

プロランナーのコンディショニング術。こんなときどうしてる?

──“ランナーあるある”の体の痛みや故障ですが、これを防ぐためにどんな対策を行っていますか?

「私自身、ここ2~3年は怪我をしてないのですが、食事を含め、しっかりと体を作ることが大切だと感じています。食事、筋力をつける、体の使い方(連動性トレーニング)を磨く。この3つを積極的に取り入れるようになってから、怪我や故障はなくなりました」(松村選手)

──これも“初心者ランナーあるある”ですが、新しいシューズを履いたとき、靴擦れやマメを防ぐおすすめの方法はありますか?

「マメができる人は、滑り止めがついている5本指の靴下がおすすめです。あとは、本番で新しいシューズや靴下を履かないようにする。レース前から試し履きをして慣らすのが大事かと思います」(松村選手)

──レース直前のウォームアップが知りたいです。

「ウォームアップは普段の練習と変わらず、ストレッチから始まって連動性トレーニングを行い、体の動きをよくしています」(松村選手)

──プロランナーとしてプレッシャーとはつねに戦っているかと思います。レース前で緊張しているとき、プレッシャーにどのように対処したらよいでしょうか?

「私、本番に弱いタイプなんですよ(笑)。昨年はプレッシャーに負けて思うような走りができなくて、失敗ばかりしていました。なんでこんな失敗するのかなって思ったとき、一番は『自分の走りに自信を持てていなかった』ってことだと感じたんです。そこで、自分なら大丈夫っていう自信を普段からつけるために、毎回の練習を大事にするようになりました。走っているときも、自分自身にプラスの問いかけをしてあげる。その積み重ねが走りへの自信に繋がっていきました。もちろん今も緊張はしますが、『私は大丈夫』って自分自身に言い聞かせられるマインドになり、自分の走りができるように成長してきたと感じています」(松村選手)

──レース中はさまざまなキツイ場面が出てくるかと思いますが、『もう走れない』という気持ちになったとき、どのような考え方で乗り越えていますか?

「『もう走れない』と思うときは自分の走りに集中できていない。気持ちだけでキツさに負けてしまっているので、まず自分に問いかけます。本当にもう走りたくない、やめたいのか。気持ちが負けているのか、本当に体が無理なのか、走りながらじっくり問いかけます」(松村選手)

──キツイのは体なのか心なのか、切り分けてみるのですね。

「走っていて厳しいなって感じる場合、自分が無理なペースで走っているということなので、少しペースを落とします。フルマラソンの場合、30キロ以降が体も心もきつくなってくるのですが、そこで1~2キロほどペースを落としてみて、それでも本当にもう限界! という感じなら、やめるのもありなのかなと思います。ただ、そこで意外と元気になったりするので、マラソンはメンタルの扱い方も大事になってくるなと強く感じています」(松村選手)

──自分に負けないメンタル作りということですね。

「本当にきつくなってくると、もう表情が『苦しい!』って感じに歪むんです。そこで試しに口角を上げてみると『あ、意外とそうでもなかったな』みたいに感じたりします。実は、今年1回目の大阪国際女子マラソンのとき試してみたんですよ。スタートからゴールまで一人だし、風も強くて『苦しい、きつい』と思ったんですけれど、ちょっとニコッってしてみたら、『まだいけるかも』って感じたんです。ホントか? って思う人はぜひ試してみてください。表情を変えることでキツさがどれだけ和らぐのか」(松村選手)

──たしかに、口角を上げることで脳は楽しいと勘違いするって、聞いたことがあります。

「はい。私はランニングイベントも開催しているのですが、今日はキツイ練習ってわかっているときの向き合い方にも、それが現れると思っています。キツイ練習だなって感じている人は、スタート前からだるいなって表情をしている。そういう表情の人は大体、走っていると離れてしまったり、気持ちで負けているタイプが多い印象です」(松村選手)

──気持ちで負けないようにする良い方法はありますか?

「苦しいときは苦しいことを考えがちですが、終わった後に好きなものを食べようとか、自分にご褒美あげようとか、考え方を少し変えるだけでも苦しさが和らぐと思います。たとえば私の場合、苦しかったり諦めそうになると、頭の中で『ああーもう無理! 無理!』って思っちゃうんですが、そこですかさず『大丈夫』って自分に言い聞かせると、意外と冷静になります。だからキツさで気持ちが負けそうなときは、『いや大丈夫、大丈夫』って自分に言い聞かせてほしいです。ぜひお試しください!」(松村選手)

──長いコースを走っていると、足裏や膝に痛みを感じることがあるかと思います。こうした場合はどのように対処していますか?

「そういう状態になったら、無理せず止めるかストレッチを行うと思いますが、私はあまりそういう状況にならないですね。もし違和感があったらテーピングで入念に準備したり、それこそレースに出場しないという選択肢になります」(松村選手)

ちなみに、松村選手のコンディショニング面を担当するパーソナル治療&トレーニングスタジオ BACK AGING(バックアゲイン)の和田有稀奈さんは、次のように語っています。

「どんなときに足の裏に痛みが出るのかにもよりますが、足裏の部分負荷になっている可能性が考えられるので、お腹を使う、腕を振るうなど、足の裏ではないところをしっかり動かすことで走れるようにするのは、解決策のひとつです。しかし、松村選手が言うように、やらない、一旦しっかり休養して次のレースないし次の練習に備えるという判断をするのも大事だと思います」(和田さん)

(左)松村選手/(右)和田さん

──故障するとリカバリーが大変なので、出場を止めるという判断も大事なのですね。ちなみに大会後は、どんなリカバリー方法を実施していますか?

「今だと月1回、マラソンレースに出場し、1週間くらい休養期間を設けています。レース前まで食べたいものを我慢して、できるだけ生活リズムを崩さないようにしてきたので、レース後は1~2日ほどチートデイ(好きなものを食べていい日)にします。ご褒美期間を与えてリフレッシュしたあとは、次に向けての準備に入ります」(和田さん)

──チートデイではどのようなものを食べているのですか?

「ちょっといいところの焼肉食べ放題です。その焼肉屋さんの牛タン、すっごく美味しいんですよ。食べ放題にも含まれているのでガンガン食べます」(和田さん)

──店で食べた後、家でも引き続き好きなものを食べたりしますか?

「やりたいんですけれど、結構お腹を下しやすいので、お腹の状態を確認しつつ、焼肉の後に甘いものを食べたりもします」(和田さん)

ちなみにボディメイク中の甘いもの補給としては、バナナとデーツが激推しだそうで、かなり熱く語ってくれました。

松村選手おすすめのデーツ(なつめやしの実)。黒糖のような味がします

終始、ポジティブな雰囲気と明るい笑顔が印象的だった松村選手。今回聞いた知識を活用しつつ、よいランニングライフが送れそうです。ランナーの皆さん、くれぐれも給水は忘れずに!

<Text:編集部/photo:松村選手提供>

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