【ラグビーW杯】日本代表通訳は元警察官 多国籍軍を1つに「人生を決める場面で人と人の間に入る」

2023年09月22日 04:43

ラグビー

【ラグビーW杯】日本代表通訳は元警察官 多国籍軍を1つに「人生を決める場面で人と人の間に入る」
イングランド戦の前にジョセフヘッドコーチ(右)とともに練習に立ち会う吉水通訳(撮影・篠原岳夫) Photo By スポニチ
 日本代表として戦っているのは選手やコーチだけではない。今大会はもちろん、日頃からグラウンド内外で多くのスタッフがサポートを行っている。そんなチームに欠かせないスペシャリストたちをスポニチ本紙では「桜を支える人たち」と題し、随時紹介する。1回目は通訳の吉水奈翁さん(45)。日本人選手と外国出身選手をつなぐ架け橋となるまでに意外なキャリアがあった。
 日本代表には、元警察官という異色の経歴を持つスタッフがいる。20年からチームの通訳を務めている吉水さんだ。流ちょうな英語と日本語を使い、外国出身選手の通訳はもちろん、外国人コーチの多い首脳陣から日本人選手への情報伝達や意思疎通で重要な役割を担う。今大会ではジョセフ・ヘッドコーチの会見に同席するだけでなく、日本人選手の会見では海外記者からの質問対応、組織委員会とのやりとり、ミックスゾーンでの通訳など、忙しく会場を行き来している。

 吉水さんは元ラガーマン。中学1年の時、当時通っていたラグビースクールの一員として、コーチだった父とともにニュージーランド(NZ)遠征に向かった。現地で2試合を戦い、ラグビー王国の文化に触れると心を動かされた。「刺激が強かった。父はNZに住みたいって気持ちが強くなった」。父子ともに大きな影響を受けると、家族でNZ移住を決断。吉水さんは中学2年の途中で日本から出て、異国の地での生活が始まった。

 現地ではオークランドのクラブチームでプレー。高校卒業後は家業の自動車整備工を手伝う傍らタッチラグビーを楽しんでいたが、転機は28歳に訪れる。アジア系の警察官募集を見つけると、チャレンジ精神に火が付き「やってみるしかない」と応募した。度重なる試験を乗り越え、30歳で警察官に。事件など重要な局面に携わり「被害者の方など人生を決める場面で(人と人の)間に入ることがあった」と、対人間を調整する仕事にやりがいを感じたという。

 ラグビー王国ならではの業務もあり、NZ代表オールブラックスの試合日は聖地イーデンパークの警備を担当。「あれって挙手制で、行きたい人(が行く)みたいな感じなんです。試合を見に行きたくて、いつも手を挙げてました」と充実した日々を送っていた。

 再び転機となったのは11年、日本人28人を含む185人が亡くなったニュージーランド地震を経験したことだった。「生と死と向き合う時間になった。自分が本当にしたいことは何か考えた」。出てきたのは、忘れられない楕円(だえん)球への思い。当時トップリーグだったサントリー(現東京SG)の通訳に応募し、14年から加入した。経験と実績を積み、目標としていた代表通訳に転身。「毎日が引き締まる思い」と、これまでとは違った特別な環境が刺激的だった。

 警察官時代にやりがいを感じていた「人生を決める場面で(人と人の)間に入ること」。それは、通訳でも同じ。首脳陣と選手、スタッフ間、選手同士の間に入る仕事はチームの結果、選手やスタッフの人生を大きく左右する。「重み、重圧はひしひしと感じる。グラウンドで国歌を歌う時は味わったことない緊張感と感動が入り交じる」。多国籍軍のチームをONE TEAMにするため、飛び交う言葉の“交通整理”をしている。

 ◇吉水 奈翁(よしみず・なお)1977年(昭52)11月12日生まれ、川崎市出身の45歳。幼稚園から川崎市ラグビースクールで競技を始めた。中学2年時にニュージーランド(NZ)へ移住。高校卒業後は父親の自動車整備工場で勤務し、30歳で現地の警察官に。14年に当時トップリーグのサントリー(現リーグワンの東京SG)に通訳として加入。20年から日本代表の通訳として活動している。

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