フルマラソンとウルトラマラソンの違いは?距離、時間、走り方、コース
2024年01月27日 09:00
フルマラソン完走後、ランナーの皆さんは、次にどのような目標を持つでしょうか。さらなる記録更新はもちろん、「もっと長い距離を走ってみたい」と、ウルトラマラソンへ挑戦する方は多いはずです。しかし数々のマラソン大会に出場してきた私の実体験から見て、フルマラソンとウルトラマラソンはまさに別物。
例えばフルマラソンでサブ3というランナーが、100kmに挑戦してリタイアした例もあります。私は2012年7月に初めてウルトラマラソンを走りましたが、当初フルマラソンは4時間1分が自己ベスト。完走こそしたものの、足や内臓などのダメージが大きく、非常に苦しいレースとなりました。
それから30回以上、距離はさまざまですがウルトラマラソンに出場しています。その経験をもとに、フルマラソンからウルトラマラソンへ挑戦を決めた方々に向けて、事前に知っておくべき“違い”をお伝えします。新たな挑戦に向けたトレーニングのヒントとして、ぜひご覧ください。
違い1:距離と時間
フルマラソンはご存知の通り、42.195kmを走る競技です。しかしウルトラマラソンはこれを超える距離すべてを含んでおり、たとえば60kmや70km、100km、あるいはさらに長い200km、300kmといった大会まで存在します。代表的なものは100kmであり、大会数は全国的に見てもっとも多いでしょう。
そのため「ウルトラマラソンといえば100km」と捉えている方もいるようです。
当然のことながら、フルマラソンとウルトラマラソンは距離が違います。100kmを例にとって挙げるのであれば、その距離はフルマラソンの2倍以上。そして制限時間は100kmなら14時間というケースが多く、これもまた2倍以上となります。
「そんなの当たり前」と思われるかもしれませんが、これが経験するのとしないのとでは大違い。実際に走ってみると、「100kmは想像以上に長く感じた」という声がたくさん聞かれます。
フルマラソンの次にウルトラマラソンへ挑戦するのであれば、「2倍以上の距離・時間を走り(動き)続ける」という認識を、改めて厳しく見ておくとよいでしょう。これまで走ってきた42.195kmは1つの通過点に過ぎず、しかも半分にすら満たない距離なのです。
✓ フルマラソンの距離=42.195km
✓ ウルトラマラソンの距離=100km前後(200km、300kmも)
違い2:走るペース
この距離と時間の関係から、もうひとつ“ペース”に関しても考えなければいけません。フルマラソンでサブ4というランナーでも、同じペースで100kmまで走りきれることはありえないでしょう。どれだけ筋持久力の高いランナーでも、距離が長くなるにつれ、維持できるペースは遅くなっていきます。
逆に言えば、「いつも通りのペースで走ってはいけない」ということ。調子が良いからとフルマラソンを走るような感覚で走ってしまうと、後半になって失速、もしかしたら走れなくなってしまうかもしれません。
フルマラソンのサブ3(3時間以内)に対して、100kmマラソンではサブ10(10時間以内)というものが速さの目安に用いられます。これは記録的に同程度の難易度とされるのですが、そのペースを平均して比較すると以下の通りです。
・サブ3→約4分15秒/km
・サブ10→約6分00秒/km
サブ3とサブ10を経験している身からすると、本当に同程度と言えるのかは疑問が残ります。しかし少なくとも、フルマラソンより“ゆっくり走る”ことが求められるのは間違いありません。上記で比べれば1kmあたり1分45秒もペースに差がありますが、このペース差にはギャップを感じるランナーが多いはずです。
フルマラソン対策で取り組んできたスピード練習などでは、この「ゆっくり長く走る」というスキルは養いにくいのではないでしょうか。
✓ フルマラソンの走るペース=約4分15秒/km(スピードを速めるスキルがいる)
✓ ウルトラマラソンの走るペース=約6分00秒/km(ゆっくり長く走るスキルがいる)
違い3:エネルギーの消費と補給
ペースがゆっくりとはいえ、長時間にわたって走り続ければ、相当なエネルギーを消費します。そしてエネルギーが枯渇すれば、人の身体は動かなくなってしまうものです。私も一度100kmマラソンに出場した際、50km手前でエネルギー不足に陥り、目の前が真っ暗になりかけた経験があります。そうならないよう、ウルトラマラソンは特にレース中のエネルギー補給が大切です。
エナジージェルをはじめ、スポーツ用品店には携帯用の補給食はたくさん並んでいます。緊急対策としては、これらを数個持ち運び、適宜食べるのも良いでしょう。しかしレース中に十分なエネルギーを賄うとなれば、かなりの数が必要です。それこそウェストポーチがパンパンになるくらい、大量に入れて走ることになるでしょう。そうなると、今度は重さが走るうえでの障壁となりかねません。
そこで、コース上に設けられたエイドステーションを上手に活用していくことが求められます。エイドステーションといっても、フルマラソンでは水やスポーツドリンクしか提供されないことも少なくありません。しかしウルトラマラソンの場合、ほとんどはエイドステーションで食べ物が提供されています。
これは、先に述べたようなエネルギー消費の事情を、大会運営側も分かっているから。パンやおにぎり、お菓子、中にはご当地グルメが食べられるような大会もあるのです。これらは大切なエネルギー源ですので、無視せずぜひ食べておきましょう。
ただし注意点があります。ひとつは、「食べてからすぐ走る」ことに慣れていないと、お腹が痛くなるなどパフォーマンスが低下してしまうこと。もうひとつは、走ることで内臓がダメージを負った場合、固形物を受けつけなくなってしまうことがある点です。特に、食べ物を戻してしまうほどダメージが蓄積すると、そこから先、走り続けることは非常に困難となるでしょう。
✓ フルマラソンのエイドステーション=おもにドリンク配布(水、スポーツドリンクなど)
✓ ウルトラマラソンのエイドステーション=エイドステーションでは食べ物配布(パンやおにぎり、お菓子、ご当地グルメなど)
違い4:アップダウンが多くなるコース
フルマラソンにはフラットコースと呼ばれる大会がいくつか存在し、初心者あるいは記録更新を狙うランナーは、走りやすさからそうした大会を選ぶ傾向にあります。しかしウルトラマラソンでは、なかなかそうもいきません。100kmという距離でフラットなコースを確保することは、非常に難しいものです。
もしどうしてもフラットコースで走りたいのであれば、同じコースを何度も回る周回レース、あるいは河川敷の往復を走るような大会を選ぶことになります。しかしそうした大会には、「景色が変わらない」「日陰が少ない」「飽きてしまう」など、デメリットも少なくありません。そのためウルトラマラソンに挑戦するならば、アップダウンは当然のこととして捉えておいた方が良いでしょう。
多くのウルトラマラソン大会では、コース情報として累積標高差をホームページなどに掲載しています。「できるだけアップダウンの少ないコースを走りたい」という方は、こちらの情報を参考に大会を選んでください。ただし同じ累積標高差でも、以下2つのパターンが考えられます。
・何度も細かなアップダウンを繰り返している
・一気に高い地点まで駆け上がって、後は下っている
好き好きはありますが、疲労の溜まり方や辛さはそれぞれ違うもの。どちらが自分に合っているかは、トレーニングを経て見極めることが大切です。
とはいえウルトラマラソンに慣れてくると、アップダウンはむしろ楽しみのひとつになるかもしれません。私の場合も、あえてアップダウンが多い過酷そうな大会を選びがち。同時にアップダウンの多い大会は、その分だけコース上から素晴らしい景色が見られるように感じています。
登りきった峠から見下ろす街や海などの光景は、それだけで「苦労して走った甲斐があった」と感じられるものです。
それぞれの違いを踏まえて、完走を目指したトレーニングを行おう
実際にウルトラマラソンを走ってみると、ほかにもさまざまな違いを感じられるでしょう。ここでは分かりやすく代表的なものを取り上げましたが、やはり一番は、実際に走って体験していただくことに尽きます。
とはいえ、これらの違いは、完走するうえで大きな壁となるでしょう。まずは「何が違うのか」をしっかり認識し、それを乗り越えるためのトレーニングを積むこと。周囲にウルトラマラソンの経験者がいれば、ぜひ一緒にトレーニングしてみてください。完走までの道のりには、フルマラソンと違った練習が必要となるかもしれません。
[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】https://www.run-writer.com
<Text & Photo:三河賢文>
おすすめテーマ
2024年01月27日のニュース
特集
スポーツのランキング
-
千秋楽取組決定!「琴ノ若―翔猿」「照ノ富士―霧島」2敗の2人が敗れれば優勝決定巴戦も
-
【リーグワン】静岡が今季ホスト戦初勝利 庄司主将、クワッガ不在も「レヴズスタイルでやっていくだけ」
-
【リーグワン】花園6連敗も、今季初めて先制など攻撃面では手応え
-
琴ノ若 初Vへ霧島破った! 横綱・照ノ富士と2敗で首位キープ 大関昇進も見えてきた
-
【卓球】“Wみゆう”涙の女子ダブルス初V 木原美悠は混合ダブルスとの2冠に「幸せ」
-
パリ五輪代表に明暗…早田ひな完勝、平野美宇は8強敗退 準決勝で“ひなみう”対決実現せず
-
【卓球】張本智和、男子ダブルス連覇逃した「相手は優勝にふさわしいペア」 シングルスでは4強入り
-
車いすテニス小田凱人が全豪優勝で生涯GSへ王手「日本の子供たちにいい姿を見せられた」
-
【リーグワン】神戸、13点差逆転で4試合ぶり白星 モール生かして横浜に競り勝った
-
戸上隼輔 史上7人目シングルス3連覇へ4強「今は自信しかない」
-
張本美和が4強入り「うれしいけど、まだ終わっていない」史上最年少V&パリ団体代表入り猛アピール狙う
-
篠塚・木原組が混合ダブルス初V 篠塚は28日にシングルス準決勝で対張本「向かっていくだけ」
-
【日本選手権】3連覇狙うロコ・ソラーレ藤沢「たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん動いて頑張る」
-
レスリング五輪代表決定PO 勝利者インタビューの反対側で敗者は嗚咽 控え室なく無残なコントラスト
-
尊富士が新十両優勝!初土俵から所要9場所目は史上最速 残り1番へ「全然集中は切れていません」
-
37歳の幕下・北ハリ磨が気迫の勝ち越し「ワクワクしていました」戦後の2位の高齢再十両に前進
-
「絶望的」残り10秒から大逆転でパリ切符 レスリング尾崎野乃香「私ならできる」五輪本番でも金宣言
-
休場の豊昇龍は右膝内側側副靱帯損傷で「約1週間の加療を要する見込み」2敗の照ノ富士は不戦勝に
-
松山英樹と久常涼は47位で最終日へ 米男子ゴルフ
-
松山英樹 76で47位に後退「残り1日良いゴルフができるように」
-
早田ひな「2人は昔から雲の上の存在」“みうみま”代表争い決着に「切符が2つしかないのは残酷」
-
女子シングルス4強出そろう 連覇へ早田は赤江と対戦、パリ団体代表狙う張本美は横井と準決勝
-
早田ひな、4強進出!!連覇へ盤石ストレート勝ち 28日準決勝は赤江夏星と対戦
-
優勝争い風雲急 3敗の大関・豊昇龍が右膝のケガで14日目から休場 2敗の照ノ富士は不戦勝
-
パリ切符の平野美宇「簡単には何も言えない…」代表争った伊藤美誠に「尊敬する選手」
-
レスリング女子68キロ級パリ五輪代表に尾崎野乃香 プレーオフで勝利
-
大関・豊昇龍が14日目から休場 13日まで3敗 結びの照ノ富士は不戦勝
-
パリ切符の平野美宇、準々決勝敗退「自分の力不足」フルゲーム死闘屈して7年ぶり日本一届かず
-
古江彩佳「うまく立て直した」連続ボギーから67 3位で決勝ラウンドへ
-
骨盤のゆがみを改善する簡単ストレッチ。「足踏み」でセルフチェックしてみよう
-
バーベル筋トレ「ショルダートゥーオーバーヘッド」とは?フォームとやり方
-
下半身痩せトレーニング「ブルガリアンスクワット」の効果的なやり方|ビキニクイーン安井友梨の “ユリ式筋トレ”
-
映画ロッキー流の筋トレ│タイヤや丸太、石を使って体を鍛えまくる方法
-
フルマラソンとウルトラマラソンの違いは?距離、時間、走り方、コース
-
筋トレ初心者におすすめの筋肥大のコツ!低負荷で筋肉を大きくするトレーニング方法
-
古江彩佳 3打差3位で予選通過 米女子ゴルフ
-
平野美宇 初のシングルス五輪代表確実「“頑張りが足りなかった”と後から言っても意味がない」
-
号泣…伊藤美誠 パリ五輪逃す 団体戦で可能性も「出るか決まっていない」
-
平野美宇 五輪代表確実の背景に戦術の幅 出遅れもみま&ひな連破が「ターニングポイント」
-
霧島 10年ぶりの珍技「二枚蹴り」で首位に並ぶ!綱獲り前進「やるしかないですね」
-
【玉ノ井親方・視点】まるで詰め将棋 照ノ富士 琴ノ若に右差させた誘い勝ち
-
相撲協会 無投票で現職の八角理事長ら10人選出
-
代表復帰の馬瓜エブリン「必ず五輪切符を手にしたい」 2月バスケ女子五輪世界最終予選
-
女子やり投げ・北口榛花 今季初戦は4月DL第2戦「試合を積み重ねながらパリへ準備」
-
松田瑞生 パリ切符獲得へ「4年前のリベンジを」28日号砲大阪国際女子マラソン