【内田雅也の追球】明暗分けた「不発弾」後の投球 阪神・大竹の真骨頂を見た平常心

2023年05月14日 08:00

野球

【内田雅也の追球】明暗分けた「不発弾」後の投球 阪神・大竹の真骨頂を見た平常心
3回無死満塁、ノイジーの中犠飛で勝ち越しのホームを踏んで笑顔の大竹。左は大山(撮影・北條 貴史) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神7-2DeNA ( 2023年5月13日    甲子園 )】 投手が走者になると周囲は気をつかう。故障しないか、走って投球に影響しないか……。
 走者になった投手を「不発弾」と呼んだのは大リーグ・レッズで長年、三塁ベースコーチを務めたロッキー・ブリッジスだった。「投手が走者でいる時のベースコーチは不発弾を抱えているようなものだ」と言った。そのこころは「いつ爆発するか分からない」。

 相手DeNA先発のロバート・ガゼルマンは3回表、自ら二塁打を放ち先制の本塁に還った。直後の投球で3四死球、2安打、4失点と乱れた。爆発してしまったのだ。

 この3回裏、阪神先発の大竹耕太郎も走者となった。無死一塁でバントを構えたがストレートの四球。指名打者(DH)制のパ・リーグ生活が長く、阪神移籍で巡ってきた打席、プロ6年目で公式戦初出塁だった。

 走者となった一塁上、ベンチから運ばれたウインドブレーカー着用も断った。この後、安打、四球、犠飛で勝ち越しの本塁に還ってきた。

 監督・岡田彰布は試合後、「え!? ランナーになったのも初めてやったんか」と驚き「そう言えば、足動いてなかったなあ」と笑った。無死一、二塁から捕手がワンバウンドをはじいた(記録は暴投)。二塁走者・木浪聖也は三進したが大竹は一塁にとどまっていた。

 さて、不安半分で見つめた次の4回表、試合当初から降っていた雨脚が強まった。それでも大竹の投球は安定していた。1死から安打されたが、大和を三ゴロ併殺打に取り、左こぶしを振るガッツポーズを見せた。爆発などしなかった。

 走者になろうとも、雨に降られようとも、平常心を保ち、自分を見失わない。真骨頂が見えた6回1失点の好投だった。

 阪神の投手で開幕から5戦5勝をあげるのは1937(昭和12)年秋の御園生崇男、2004(平成16)年の福原忍(現2軍投手コーチ)以来3人目だ。

 御園生は球団創設メンバーで、右腕からシュートを得意とし、37年秋~38年春に18連勝をマーク。打撃もよく俊足。登板しない時は一塁や外野を守った。通算506安打(5本塁打)、87盗塁(本盗6)の記録が残る。

 時代は異なるが、投げて打って走って……は猛虎魂なのだろう。御園生はロイド眼鏡の似合う風貌と落ち着いた人柄で「銀行員」と呼ばれた。どこか沈着冷静は大竹に通じている。 =敬称略=
 (編集委員)

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