上谷沙弥 「元アイドル」のヒールレスラーが見せる「最狂の景色」

2024年10月18日 08:00

芸能

上谷沙弥 「元アイドル」のヒールレスラーが見せる「最狂の景色」
リング上で「あっかんべー」をする上谷沙弥(C)スターダム Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】2019年にアイドルからプロレスラーに転身した上谷沙弥(27)が今年7月、「ベビーフェイス(善玉)」から「ヒール(悪玉)」に転身した。
 今、リング上でアイドル時代の面影はない。インタビューに応じた上谷はこう話した。

 「元アイドル?記憶ないなー(笑)。てか、そんな昔の話出してくるんじゃねーよ。今見ている奴らで、私がアイドルをやっていたことを知っている人はほとんどいないんじゃない?ヘイト(上谷が所属するユニット『H.A.T.E.』)のテクラ選手が『アイドル狩り』と言ってコズエン(敵対ユニット『COSMIC ANGELS』の略称)をいたぶっているんだけど、テクラのSNSに『上谷もアイドルだったじゃん』みたいなコメントが寄せられたみたいで、控室でテクラは私に『Really?カミタニはアイドルだったの?Oh my god!』と言ってた。ヒールになってからはそんなの意識したことないね」

 ベビーからヒールへの転身、その反対は長いプロレス史にいくつも存在する。一般企業に例えれば人事異動もしくは担当替えだが、今回は「闇落ち」とも称されている。

 「落ちている感じは全くしない。フィラデルフィア(スターダムが4月に米国で行った大会)で試合をしたり現地試合を観戦した時、世界規模のプロレスを目の当たりにして『自由にやりたい』と思った。ベビーでもヒールでも存在感を出せる奴は出せるからね。私を見たら分かるでしょ?(笑)これまで誰も成し遂げたことがないヒールレスラーとしての地位を築き上げるチャンスだよ」

 かつて米国に「NWA」という大きな団体があった。そこで長く王者を務めたハリー・レイスには、ヒールとしてベルトを巻いて全米各地、さらには海外で、現地の人気レスラーたちと戦い続けることで観客動員に大きく貢献したイメージがある。つまり、一流のヒールとは、どんな場所でも、どんな相手とでも戦える実力、そこで観客から嫌われたり憎まれたりしながら対戦相手の魅力を十分に引き出せる能力を持つレスラーだ。

 上谷は転身後、コスチュームとメークを変えた。

 「今のコスチュームは、私服で黒を着ることが多いから違和感はないかな。SNSで『白い肌が際立つ』みたいなコメントを読んで、ブラックにして良かったと思ってる。メークは『ザ・ヒール』みたいなペイントにすることもできたけれど、自分のビジュアルは活かした方がいいと思ったから研究したね。SNSで『以前よりいい』『まねしたい』と評判がいいので気分がいいよ(笑)」

 リングでの戦い方にも変化がある。持ち前の身体能力の高さを生かすところは以前と同様だが、そこにヒールならではの動きと表情が加わった。

 「今までの理想のプロレスラー像は空中殺法のできる華麗なレスラーだった。でも、自分がその理想に近づいていくにつれて、どんどん苦しくなっていった。その1番大きな出来事が昨年7月の『5★STAR GP』開幕戦(中野たむ戦で、リング外の鉄柱=高さ約5メートル=からダイビング・ボディアタックを決行して左肘を脱臼)だった。今はフェニックスの羽根を伸ばして、自由に伸び伸びとプロレスができている。ヒールでも空中技は使うし、悪いこともできるし、仲間のアシストもできる。今が1番楽しくプロレスをできてるよ。『しもべ』たちからは『表現の幅が広がった』って言われるね。その時の自分自身の感情を大切にしようと思うと、それが自然に顔に出る。ベビーの時は、いらついていても『良い子でいなくちゃ』と歯止めをかけていた部分があったけど、それはプロレスにおいてもったいないことだった。ありのままに表現した方が見ている奴らには伝わるんじゃないかな」

 上谷の空中殺法の頂点だった必殺技「フェニックス・スプラッシュ」は既に封印しており、現在は「スター・クラッシャー」を必殺技にしている。

 「これは初めて言うけど、実はスター・クラッシャーには『スターダムのスターたちを壊していく』という意味があるんだ。その名の通り、今、みんなを壊し始めているよね?(笑)フェニックス・スプラッシュは自分を創りあげてくれた技だから、思い出さないと言えばウソになるけれど、使いたいとは思わない。今それに頼る必要がないからね」

 2021年から23年にかけて白いベルトを連続防衛していた頃は対戦相手を輝かせる試合をしていた。当時のインタビューでは「防衛を重ねるごとに『チャンピオンとしての器』の重要さを感じる。チャンピオンは相手の良さをどう引き出すか考えた上で試合の流れを作らなくちゃいけない。試合で相手を光らせる。相手を輝かせる。プロレスは勝者だけじゃなく敗者も輝くもの。私はそういう試合をしていきたい」と話している。

 「それは対戦相手によるかな。ヒールになってからは、自分のありのままの感情で戦ってる。舞華と戦った8月の『5★STAR GP』決勝は、技を受けたくない時はスカしてやったよ。地獄の底に引きずり下ろしたい相手だからね。ベビーの時はまっすぐに全てを受けていたけれど、それは自分の気持ちにウソをついている部分があったかな。今は気にくわない相手とは、すかしたり、悪いことをしたり、意地悪をしたり、ありのままの感情で戦ってる。一方で『戻って来て』と言う後輩の玖麗さやかと戦った時(10月5日)は、ほぼ全ての技を受けた。だって、しつこいんだもん、アイツ(笑)。仕方なく受けてやったよ。まあ別に対戦相手を輝かすつもりなんてないんだけどさ、どんな戦い方をしても、みんな輝いちゃってるから、私の力量ってことだよねー(笑)」

 ヒールとして自分の道を進む先に見据えているものは何なのか。

 「今1番やりたいのは赤いベルトを巻いてスターダムを真っ黒に染め上げること。私がベルトを巻いて、ヘイトがスターダムを支配する。ヘイトのメンバーとなら、これまで誰も成し遂げられなかったことを成し遂げる自信がある。ヘイトみんなでスターダム、プロレス界全体をひっかき回していきたい。チャンピオンとしては、スターダムにいる奴ら一人一人をぶっつぶして行きたいね。誰も見たことのない面白いチャンピオン像を築けると思うよ」

 現在、赤いベルトは中野たむが保持している。約3年前には白いベルトを奪い取り、昨年の試合では脱臼して長期欠場に至った、因縁の相手だ。

 「中野たむの記事で『私との試合で肘を脱臼したせいであんなふうになっちゃったのかな…』みたいなコメントを読んだけれど、そんなことは一切ないから。私は誰かに左右されるような弱い覚悟で今ここにいない。自分の強い意志で今ここにいるからね。中野たむは昨年も同じ時期に赤いベルトを巻いてたから『またアイツかよ、スターダムの景色が全く変わってないじゃん?面白くない』と思ってる。今すぐアイツを引きずり下ろしてアイツが『もう、たむダメかも…。引退したい(涙)』とか嘆いてる姿をおまえらに早く見せてやりたいよ(笑)」

 最後に、ファンに対する思いを聞いた。

 「サイン会事件(今年6月、イベント中にファンの1人から誹謗中傷を受けたこと)があって、正直、信じていたお客さんでも、いつ手のひらを返すか分からないと思った。そこから自分の中でファンに対する考え方が変わったかな。私について来たい人はついて来ればいいし、応援したくない人は応援してくれなくていい。ヘイトに入ってサイン会、撮影会がなくなった中でも変わらずに応援してくれる『しもべ』たちがいる。本当に心からうれしいよ。どんな私でもついて来てくれる『しもべ』たちには『最狂の景色』を見せてあげる」

 お楽しみはこれからだ。

 ◇上谷 沙弥(かみたに・さや)1996年(平8)11月28日生まれ、神奈川県出身の27歳。2014年、バイトAKBのメンバーに。18年、スターダム★アイドルズに加入。19年、スターダムのプロテストに合格。21年、シンデレラ・トーナメントで優勝。同年、中野たむをフェニックス・スプラッシュで破り、白いベルトを獲得。23年、15回連続防衛記録を樹立。身長168センチ、体重58キロ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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