【内田雅也の追球】涙から15年、笑顔の「10・20」

2023年10月21日 08:00

野球

【内田雅也の追球】涙から15年、笑顔の「10・20」
<広・神(3)>優勝インタビューに応じる岡田監督(撮影・須田 麻祐子) Photo By スポニチ
 【セCSファイナルS第3戦   阪神4ー2広島 ( 2023年10月20日    甲子園 )】 阪神監督・岡田彰布が一時的とはいえ、今季限りでの勇退を心に抱いていた理由の一つに、選手たちの成長があった。
 リーグ優勝決定の9月14日に書いた、8月5日夜の話である。岡田は「勇退なあ……。ええ言葉やなあ」と言った。「本当に強くなった。自分が言ってきたことをこんなに早く吸収し、結果が出るとは思っていなかったよ。全員が自分の役割を分かり、忠実にプレーしている」。自分の仕事は終わったと、達成感を抱いているようだった。

 その後、「自分だけ辞めるわけにはいかない」と翻意し、続投意欲と闘志を燃やしている。

 3連勝のスイープでクライマックスシリーズ(CS)突破を決めたこの夜も、岡田が進めてきた野球で競り勝った。

 計7四球を選んだ。4、6、7回裏にあげた得点にはいずれも四球がからんだ。それも押し出しを含め、走者を進める価値ある四球だった。四球は今季リーグ最多、大きな得点源だった。岡田も「最後の試合で本来の形になったな」と話した。

 2月のキャンプ中、「追い込まれてもストライクゾーンは変わらんのやで」と選手たちに諭して以来、打者は狙い球を絞り、選球する重要性を身につけ、磨いていた。

 「それと、やっぱり守り勝ちよ」。1回表先頭の遊撃右へのライナーを木浪聖也が横っ跳びで好捕。8回表には中野拓夢が一、二塁間のライナーを好捕。さらに森下翔太が適時打になる右前ライナーを好捕した。相手の安打性ライナー3本をもぎ取った球際の強さは特筆しておきたい。

 リーグ優勝を決めた際「このチームはまだまだ強くなる」と言った。経験を積み、確かに成長を続けている。

 そして、この日、10月20日という日付を岡田は忘れていない。前回監督の2008年、CSファーストSでの敗退が決まった日だった。シーズンV逸で先に辞意表明しており、阪神に別れを告げる最後の采配だった。

 敗戦後、京セラドームの監督室にいると、選手会長だった赤星憲広が「スタンドのファンが帰らずに待っています」と呼びに来た。選手たちに胴上げされ、涙にくれた。

 あれから15年。あの夜と同じ「オカダ」コールが甲子園に響き渡っていた。今度はお立ち台に立って笑顔で話し、スタンドの笑いを誘っている。野球人としての幸せを感じていた。 =敬称略= (編集委員)

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