「虎に翼」寅子泣き顔アップ異例4分長回しのワケ&初回冒頭に戻る“伏線回収”新撮のワケ 演出語る裏側

2024年05月30日 08:15

芸能

「虎に翼」寅子泣き顔アップ異例4分長回しのワケ&初回冒頭に戻る“伏線回収”新撮のワケ 演出語る裏側
連続テレビ小説「虎に翼」第44話。佐田寅子(伊藤沙莉)が新聞紙に「日本国憲法」の文字を見つけると、佐田優三の声が聞こえてきて…(C)NHK Photo By スポニチ
 【「虎に翼」第9週演出・安藤大佑監督インタビュー 】 女優の伊藤沙莉(30)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「虎に翼」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は30日、第44回が放送され、戦後、人生のどん底に落ちた主人公・佐田寅子が日本国憲法公布を知る姿が描かれた。初回(4月1日)の冒頭シーンに戻る“伏線回収”。寅子が河原で涙していた理由が明らかになった。ラストは伊藤が泣き続ける姿をアップでとらえた長回し。視聴者の感動と驚き、涙を誘い、SNS上で大きな反響を呼んだ。演出を担当した安藤大佑監督に撮影の舞台裏を聞いた。
 <※以下、ネタバレ有>

 向田邦子賞に輝いたNHKよるドラ「恋せぬふたり」などの吉田恵里香氏がオリジナル脚本を手掛ける朝ドラ通算110作目。日本初の女性弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子氏をモデルに、法曹の世界に飛び込む日本初の女性・猪爪寅子(ともこ)の人生を描く。吉田氏は初の朝ドラ脚本。伊藤は2017年度前期「ひよっこ」以来2回目の朝ドラ出演、初主演となる。

 戦時下、子どもを授かった寅子は弁護士の道をあきらめたが、夫・優三(仲野太賀)は戦病死、兄・直道(上川周作)は戦死。終戦から1年、父・直言(岡部たかし)も病死。生涯を懸けた夢と最愛の家族を次々に失い、絶望の淵に沈んだ。

 そして第44回は1946年(昭和21年)秋、小笠原(細川岳)という復員兵が“寅(虎)のお守り”を届けに寅子を訪ねる。はる(石田ゆり子)は娘にお金を渡し「これは、自分のためだけにお使いなさい。これ以上、心が折れて粉々になる前に、お願いだから立ち止まって、優三さんの死とゆっくり向き合いなさい」と“贅沢のススメ”。寅子は闇市からの帰り道、河原で焼き鳥を食べる。包み紙になっていた新聞紙に「日本国憲法」の文字を見つけ…という展開。

 日本国憲法第14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 第1回の幕開けとつながる展開は、吉田氏の当初からのストーリー設計。安藤監督は「初回のオープニングというのは、いわばそのドラマの所信表明ですよね。戦後、もんぺ姿の寅子が河原で憲法第14条を読む姿から始めるのは、吉田さんがこの作品に込めた大きなメッセージ。戦後、三淵さんをはじめ、当時の法曹界の多くの方が“新憲法が大きな力になった”という主旨のことを回想されていて、まさに“翼”だと思うんです。一度、どん底に落ちてからの再生。寅子の本当の法曹人生がスタートします」と解説。

 この日、第1回の冒頭シーンが寅子の人生のどのタイミングで訪れていたのか判明。「初回の時点では、寅子が何を背負って佇んでいるかは分からないけれど、多くの視聴者の方々が涙してくださったと聞きました。第44回に至って、僕も今まで以上に寅子のことを応援したくなりましたし、希望の光が見つかってよかったと思いました。ちなみに、初回の新聞紙にも、よく見ると、焼き鳥のタレが付いています」と明かした。

 第44回の河原のシーンは、初回(担当はチーフ演出・梛川善郎監督)とは別に新規ロケを実施。「初回は放送に合わせて早い段階でのロケで、戦後にかけて寅子の身に起こることを踏まえて、伊藤さんに演じていただきました。今回は寅子に、優三や娘の優未との時間をなるべく長く過ごした上で河原にいてほしい。なので、演出陣のわがままな希望ですが、初回とは逆に、今回のロケはなるべく後にしてほしいと、プロデューサーやスケジュール担当に日程の調整をお願いしました」と環境を整えた。

 寅子が日本国憲法を読み、涙を流していると、優三の声が聞こえてくる。「トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。違う仕事を始めてもいい。優未のいいお母さんでいてもいい。僕の大好きな、あの、何かに無我夢中になってる時のトラちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。いや、やっぱり頑張んなくてもいい。トラちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」――。優三は優しく微笑んだ。

 寅子と“幻の優三”による河原のシーンは、出征時の第40回(5月24日、担当はサード演出・橋本万葉監督)と同じシチュエーションだが、これも新撮。「第44回の後、もう一度、初回を見ると、あの寅子の横には実は(幻の)優三がいたわけで、それが分かると、初回の見え方も違ってグッと重くなりますよね。演出として悩んだのは、第40回は寅子と優三が立って向かい合って話をしましたけど、同じ形にするかどうか。優三の台詞も同じなので、同じ形の方がリフレインの効果も出ますが、今回は横並びで座ってもらいました。これから寅子は1人で立ち上がって、歩んでいかないといけない。でも、隣には優三が寄り添っている。そんな思いを込めました」と振り返った。

 優三の望みを聞いた後、寅子が泣き続けること約2分。優三を想って焼き鳥を食べ始めたところからだと、約4分。最後は泣き顔のアップを映し続け、異例とも言える長回しとなった。

 「これだけの分量の台詞があって、座長としても大変なのに、伊藤さんは毎日笑顔を絶やしません。僕たちスタッフも本当に助けられているんです。そんな伊藤さんでも、この日ばかりは寅子のままにつらそうで。待ち時間も1人で思いを馳せていらっしゃって、声を掛けられませんでした。今のところ僕が知る中だと、そんな伊藤さんはこの日が最初で最後」というほどの入魂ぶり。

 「優三の姿が消えた後の寅子のワンショットは、寅子という人間がこれまで挑み、背負ってきたもの、失った多くのもの、そして未来へ向けて立ち上がる新たなる芽吹き。そのすべてが伊藤さんの表情だけで伝わってくる圧巻のお芝居でした。その場限りの感情を出し切ってほしかったので、優三が現れ、消え、寅子が一人残るまでを、止めずに流れで撮影しました。全スタッフがそのお芝居に引き込まれ、時間が止まったような感覚になったことを覚えています。伊藤さんの感情表現は繊細にグラデーションしていて、表情だけでストーリーテリングをしてしまうほど素晴らしい。これはもう、切りどころがない。初回冒頭にもつながる寅子の人生における重要な瞬間に、視聴者の皆さんも心を乗せて立ち会ってほしい。そう思って、あの長い長いラストカットとなりました」

 ◇安藤 大佑(あんどう・だいすけ)2008年、NHK入局。最初の赴任地は佐賀局。12年からドラマ部。大河ドラマ4作目となった22年「鎌倉殿の13人」は“神回”の1つ、第45回「八幡宮の階段」(11月27日)など全6話を担当。朝ドラに携わるのは16年「とと姉ちゃん」(助監督、第21週演出)以来2作目で、今回はセカンド演出を務める。

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