【コラム】金子達仁
「上田の高さ」生かせず 欠如していた集団としての知恵
2023年03月30日 06:00
サッカー
この日の守田は、繰り出すパスの内容も、ウルグアイ戦とは明らかに違っていた。端的にいえば、タテに入れるボールが格段に増えていたのである。中にはミスパスとなり、本人が頭を抱える場面もあったが、こういう挑戦と失敗には、わたしはむしろ賛辞を贈りたい。
同点ゴールを奪われるきっかけとなったのは、相手GKからのフィードに、板倉が食いついたことだった。場所はセンターラインを越えた敵陣。本来であれば、センターバックが飛び出す場面ではないし、ミスと断じられても仕方がない部分はあった。
だが、結果的には引っかけられた板倉のクリアは、少しコースがずれていれば一気に相手の急所をついていた可能性もあった。板倉もまた、いかに効果的に試合を動かすかを考えていたのだろう。ブンデスリーガでの成功体験をもとにして。
ただ、「いろいろ考えているんだな」と感じさせてくれたのは、残念ながら個人レベル止まりだった。
この日の試合において、コロンビアの選手に「誰に一番脅威を感じたか」とアンケートをとってみたとする。試合前は国際的に名前の知られた三笘だっただろうが、おそらく、試合後の答えは「上田」だったのではないか、と思う。それぐらい、彼の高さは圧巻だった。なんなら、これからは背番号17をつけてニックネームを“空の要塞(ようさい)”にしたら、と思うぐらいに圧倒的だった。
ところが、かくも圧倒的な武器を、日本はたった2回しか使わなかった。なぜ?おそらくは、誰もコロンビア人DFの心境を推理していなかったから。誰も「あいつら、こんなことされたらイヤかも」と想像しなかったから。はっきり言えば、集団として知恵を使っていなかったから。
書いていながら、実は胸が痛い。ともすれば、考えることなくオートマチックな流れに身を委ねてしまうのは、自分も含めた日本人の国民性だから。流されていても危険に遭うことも、食べることに困ることもない社会に生きている人間の特徴だから。
日本に勝ったコロンビアは、日本よりも圧倒的に強かったのか。そうだ、とも言えるし、そんなことはない、とも言える。ただ、確実に言えることがあるとしたら、彼らには個人だけでなく、集団としての知恵もあった。上田という武器をあっさりと手放した日本と違い、彼らはしつこく、相手が嫌がること、困ることをやろうとしていた。ボーっとしていては命を落とす危険のある国で育った者特有の、異様な嗅覚の鋭さがあった。
西村の運動量は凄かった。もはや「鋼鉄の肺を持つ男」。世界でも一流レベル。ただ、フィニッシュの場面の落ち着きは、まだまだだった。では、それを獲得するにはどうするか。Jリーグでゴールを量産するしかない。しまくるしかない。西村だけではない。この試合に出場した多くの選手が、少しずつ何か、足りなかった。そのことを痛感させられた試合だった。
少しずつ、ではあるけれど。(金子達仁=スポーツライター)