【コラム】金子達仁
斬新なGK起用で得られる果実 森保監督はどうする?
2022年11月23日 06:00
サッカー
無関係では断じてない。
大苦戦を強いられたオランダが辛くも勝利を収めることができた要因の一つに、GKノペルトの奮闘があった。W杯はおろか、代表キャップですらゼロだった選手の起用は、老将ファンハールにとっても賭けだったはずだが、結果は吉と出た。
ノペルトが見せたセーブに、スーパーなものは一つもなかった。好セーブではあったものの、一定レベルにあるGKであれば誰でも止められたと言っていい。ただ、経験豊富なGKではもたらせないものが、ノペルトのセーブにはあった。
彼の起用を知らされた時、多くのオランダ選手は思ったはずである。「大丈夫か?」。経験が極めて重要視されるポジションに未経験の者を置くとなれば、不安を覚えない方がおかしい。
だが、そんな選手が味方の危機を救えばどうなるか。わたしだったら昂(たかぶ)る。よくやってくれた、よおし待ってろよと闘志を掻(か)き立てる。予想以上の苦戦を強いられながら、オランダが最後まで一体感を失わなかったのは、ノペルトの奮闘が無関係ではなかったとわたしは見る。見たい――曲がりなりにもGKをやってきた人間の一人としては。
正直、ファンハール監督がそこまで期待していたとは考えにくい。ただ、狙いはどうであれ、世界はオランダの極めて斬新なGK起用法と、それによって手にした果実を見た。
日本は、森保監督は、この情報と無関係でいられるだろうか。
カナダ戦でのGK権田の出来は、はっきり言って悪かった。最後にPKを止めていれば一気の挽回も可能だったが、それも叶(かな)わなかった。彼は決して高いボールに弱いGKではないが、ドイツは弱点と見ただろうし、そこを狙ってくる可能性も高い。
他のポジションであれば、出来が悪かったのであればすぐに交代の決断が下される。GKだけは違う。よほどの不出来でない限り、挽回を期待して使い続ける監督が多い。前回大会の西野監督もそうだった。
だが、ファンハールは代えた。どんな理由があったにせよ、W杯の初戦でGKに代表デビューをさせるという、前代未聞の奇策に打って出た。
おそらく、森保監督もカナダ戦での権田のプレーには不安を覚えたはずである。それでも権田にこだわるとしたら、理由はサッカー界の常識にのっとったから、というところが大きいだろう。経験>勢い。よって権田>シュミット。
そこで、ノペルト。
わたしだったら、本格的に悩み始める。4年前、GKが絶好調だったらまた違った展開になったのに、と悔やんだ人間としては、いよいよシュミットを推したくなってくる。実を言えば、森保監督がファンハールの影響を受けることを祈ってさえいる。
ただ、それでも権田を使うのであれば、ここは川島の出番である。4年前の経験と、そこから導き出したであろう対策と結論を、できる限り権田に伝えてほしい。ドイツと対峙(たいじ)するのがカナダ戦の権田だとしたら、日本に勝ち目はない。(金子達仁氏=スポーツライター)