【コラム】金子達仁
生まれ変わった姿を見せなければ鈴木彩艶に代表の資格なし
2024年02月05日 04:30
サッカー
だが、大会中に必ずや訪れる苦しい試合を勝ち抜く上で、ハイレベルな守護神の存在は不可欠。日本の首脳陣は、その最有力候補として鈴木を選び、かなり深刻なミスにも目をつぶってきた。控え選手の立場からすると理不尽にすら感じられるであろう厚遇だったが、GKが経験によって成長するポジションだということを考えれば、理解できる方針でもあった。
では、その思いをどれだけ鈴木が理解していただろうか。
板倉がPKを取られた。お粗末なプレーだった。きっと、本人も衝撃を受けている。経験豊富なGKであれば、笑顔で板倉を抱きしめ、「俺に任せておけ」とポーズを取ってほしい場面。味方に手を差し伸べるだけでなく、相手にも自分には余裕があることを見せつける。それがPKストップにどれだけ効果があるかはわからない。それでも、自分にできることはすべてやる。経験豊富なGKであれば。
もちろん、まだ若く、守備陣のリーダーですらない鈴木にそんなことを期待するのは間違っている。ただ、彼ができることをすべてやったか、やろうとしていたかと問われれば疑問が残る。
彼の持ち味は、武器は何か。正確かつ長距離も可能なフィード力というのも含まれるだろう。ならば、そこだけは絶対に死守してほしかった。
イランの同点弾はいかにして生まれたか。最後にかわされたのは板倉だった。だが、きっかけをつくったのは、鈴木のフィードだった。守りに不安なところはあっても、彼のフィード能力には全選手が相当な信頼を寄せていたはず。そこで、センターサークル付近の相手にダイレクトで渡るミスが起きたらどうなるか。当然、対応は一瞬遅れる。
今大会の鈴木が犯したミスのほとんどには、不運な部分もあった。だが、このフィードミスは違う。彼に自覚と集中があれば、100%防げたミスだった。自他ともに認める武器を、雑に用いたことで起きたミスだった。
5試合続けてダメだったからもうダメだと考えるか、はたまた、忘れ得ぬ5試合の経験が彼を爆発的に成長させると考えるか。いまはどちらにも転びうる2択を決定づけるのは、あくまでも鈴木次第。所属クラブで誰の目にもわかるぐらい生まれ変わった姿を見せてくれなければ、もう代表の資格はない。
イラク、イランに敗れたことで、それも内容的にも完敗したことで、W杯カタール大会以降の1年で積み重ねてきたものは、大部分、吹っ飛んでしまった感がある。
どんなチームにも好不調はあるものだが、イラン戦での日本は、いい時があったのが信じられないほどに試合の質を落としてしまっていた。固まりつつあったと思われたチームの骨格が、実はかなり脆弱(ぜいじゃく)だったことも明らかになった。上田、毎熊など、今大会をきっかけに飛躍してくれそうな選手がいなかったわけではない。ただ、収穫と喪失を比較した場合、圧倒的に後者の方が大きかったことは認めざるを得ない。苦い、あまりにも苦い大会だった。(金子達仁氏=スポーツライター)