【コラム】金子達仁
“反ルイス・エンリケ” スペイン・マルカ紙の報道は信じるべきか
2022年12月01日 08:00
サッカー
ただ、報じたのがマルカ紙だったということで、わたしは眉に唾をつけることにした。
現役時代、ルイス・エンリケは自ら望んでレアルからバルセロナへ移籍している。激怒したマドリディスタは以来ことあるごとに「裏切り者」と罵(ののし)り続けたが、ルイス・エンリケには馬耳東風だった。わたしの知る限り、彼ぐらい首都のファンとメディアから憎まれ、また疎まれた00年代の選手はいない。クラシコになると、なぜか普段以上の力を発揮するのが、ルイス・エンリケという男だったからである。
代表監督になってからも、彼と、マルカをはじめとする首都のメディアとの関係に改善の兆しはなかった。むしろ、カタールに連れて行く26人の中に、レアルの選手がたった2人しか含まれていなかったことで、関係はさらに悪化した。
どこぞのスポーツ紙と阪神の監督の関係が悪い、巨人・原監督とは敵対している、なんて話は聞いたことがないが、マルカをはじめとする首都のメディアは徹底的にレアルの側に立ち、ムンド・デポルティーボなどカタルーニャのメディアは徹頭徹尾バルサを推す。というわけで、反ルイス・エンリケの姿勢を貫いてきたマルカ紙の記事を、いまひとつ信じられないわたしである――スペインにとって、気持ちのもっていきようが難しくなるのは確かだな、とは思いつつ。
さて、何の見せ場もつくれず、また怒りにふるえる観客のブーイングにさらされるでもなく、あっさりと大会を去ることになったカタールの最終戦は例外として、グループAとBの最終戦はどれも見応えがあった。
エクアドル対セネガル、イラン対米国は、どちらも引き分けが許されるチームと勝つしかないチームの対決という図式だった。
互角の条件下で行われた試合であれば、内容はもう少し拮抗(きっこう)した時間帯が長いものになっていただろう。だが、現実は違った。勝たなければならない側がゴールを奪うまでは、勝たなければならない側が試合を支配し、ゴールが生まれてからは支配されていた側が逆に支配をするようになった。
同様の状況での試合は、過去のW杯でも数えきれないほどあったはずだが、これほどまでにジキル博士がハイド氏になり、ハイド氏がジキル博士に転じる試合は、あまり見た記憶がない。
考えてみれば、あの日本対ドイツの一戦も、試合の途中で内容が激変した。システムの変更や選手のメンタルなど、さまざまな原因があるのだろうが、日々進化する情報分析により、世界中の監督がより効果的な一手を打てるようになったのかも、などと推察してみたりもする。
いずれにせよ、やっぱり1次リーグ最終戦は面白い。過去のW杯も面白かったが、今回はまた、格別である。(金子達仁氏=スポーツライター)