【コラム】金子達仁
町田は荒々しく挑戦的な「メタル・フットボール」
2024年03月07日 11:00
サッカー
第2節が終わったJリーグ。大変なことになっている。昇格組3チームのうち、2チームがすでに初勝利をあげ、川崎F、横浜、神戸、浦和といった有力どころに早くも土がついている。最下位の名古屋に至っては、勝ち点どころか得点自体がゼロ。なかなかに波瀾(はらん)万丈な序盤戦である。そんな中、やや引っ掛かりを覚えるのが町田の取り上げ方である。
多くのメディアは、彼らのサッカーを紹介する際、“堅守速攻”という表現を使っている。確かに、彼らの守備は“堅い”し、ボールを奪ってからの攻めは“速い”。なので、間違った紹介ではないのだが、ただ、町田のサッカーは断じて退屈ではない。
開幕戦のG大阪戦しかり、初勝利をあげた名古屋戦しかり。ボール保持率だけを見れば、町田は完全な劣勢だった。だが、彼らは相手の猛攻を耐え忍んでいたわけではない。シュートの数、決定機の数では逆に大きく上回っていた。
サッカーにおいて一番心拍数の上がる場面は何かと聞かれれば、わたしは“ゴール前での攻防”と答える。最終ラインからの美しいパス交換もいいが、突き詰めて考えると、ゴール前でのスリリングな場面が楽しみでわたしはサッカーを見ている。いわゆる“堅守速攻”と言われるタイプのサッカーが好きになれないのも、そうしたサッカーを指向するチームの多くが、相手のチャンスを減らすことに腐心し、かつ自分たちのチャンスを増やす意欲に欠けるから、でもあった。
町田のサッカーは違う。J2での戦いもそうだったが、このチームぐらいオープニングショット、つまりその試合における最初のシュートを放っているところは珍しい印象がある。つまり、彼らは立ち上がりから相手ゴールに迫ろうとする意欲を漲(みなぎ)らせている。
ではなぜ、町田のサッカーはボール保持率が低いのか。近年のJポップからいわゆるイントロが消えつつあるように、黒田監督が、“サビに入るまでの時間”、すなわち“チャンスを模索する時間”を無駄だと考えているからだろう。相手には無駄があり、町田にはない。その差が、ボール保持率になって表れている。タイパという観念からいけば、町田は時代に即したサッカーをやっているのかもしれない。
だとしたら、そんな町田のサッカーを旧態依然とした“堅守速攻”なる言葉で片づけていいはずがない。より直截(ちょくせつ)的で、荒々しくて、挑戦的で……わたしだったら、大好きな音楽のジャンルから“メタル・フットボール”とでも呼びたいところ。もちろん、却下は覚悟の上です。(金子達仁氏=スポーツライター)