【コラム】金子達仁
セットプレーとセットプレーからのカウンター。封印を解き放つ時
2022年11月19日 04:30
サッカー
だが、それだけだろうか。
カナダに比べれば数自体が少なかったとはいえ、日本にもセットプレーはあった。では、そのうちの何度が、相手GKに冷や汗をかかせたか。おそらくは、ゼロ。正直、迫力も可能性もまったく感じられなかった。
もちろん、本番直前のこの時期に手の内を明かしたくない、という面はあっただろう。ただ、セットプレーからの得点の少なさは、アジア予選の時から言われてきたことでもある。予選の途中にはセットプレー専門のスタッフが加わったものの、問題が解決されたとは言い難かった。
なぜ、なぜ、なぜ――ずっと抱えてきた疑問に、ヒントを与えてくれたのはカナダだった。
彼らは、怖がっていなかった。
途中までは追う側だったから、という展開が影響した可能性は否定できない。それでも、わたしの目には、日本陣内でのセットプレーに参加するカナダの選手たちが、あまり怖がっていないように見えた。
日本のカウンターを。
日本は違った。間違いなくカナダのカウンターを警戒していた。ゴールを奪う場面に参加しながら、そのあと、自分たちが失点しないことにも重心の幾ばくかを残していた。
日本には4年前、ベルギーにやられた記憶がある。カナダには、ない。ひょっとすると、それが迫力の違いになって表れているのではないか――。
振り返ってみれば、セットプレーからの得点機会をほとんど生み出せなかったアジア予選での日本は、同時に、セットプレーからのカウンターもほとんど食らわなかった。
ならば、どこかで封印を解けばいい。
マスカットでオマーンと冴(さ)えない試合をやったドイツにも、予選での日本がセットプレーから好機を作れなかったというデータは入っているだろう。カナダ相手に四苦八苦する試合を偵察したことで、データには新たな裏付けが加わった。
さらに言うならば、どんなチームを相手にしてもセットプレーからのカウンターに対する警戒心を捨てなくなった日本は、これまで、自分たちが守るセットプレーからのカウンターをほとんど見せていない。あれほどの効果、破壊力を目の当たりにさせられた国であるにもかかわらず、である。
よく、大きな大会を前に「セットプレーがカギ」と言われることがあるが、今大会の日本にとってはまさに金言である。
日本を相手にするドイツに油断があるとは思えない。とはいえ、第2戦にスペイン戦を控える彼らからすれば、意識はどうしてもそちらに向かいがちになり、武器ではなかった日本のセットプレーに対する警戒が緩むことも考えられる。
セットプレーと、セットプレーからのカウンター。研究と分析が進んだ現代サッカーだからこそ、この2つは、日本にとって大きな武器となりうる。(金子達仁氏=スポーツライター)