【プロテイン摂取のタイミング】にまつわる迷信。筋トレ後の30分ルールを疑え!
2023年09月06日 09:00
一般的には、「運動後の15~30分以内にプロテインを摂る」という説が広く知られていますが、近年ではこの説に対する異なる見解も出てきています。
この件に関して、元ボディビルダーで東京医療保健大学医療保健学部医療栄養学科の教授である御堂直樹先生の意見を伺いました。
プロテインは運動後すぐに飲まないとダメ?
「運動後、30分以内にプロテインを飲む」、いわゆるゴールデンタイム神話というものがあります。このゴールデンタイム、やはり意識したほうが筋肉を作るうえではよいのでしょうか。
「ゴールデンタイムにこだわる必要はないと思います。複数の研究結果を分析・統合した信頼性の高い研究において、ゴールデンタイムに否定的な結果が得られています。」(御堂先生)
ゴールデンタイムにこだわる必要はないと語る、その理由とは。
「プロテインの摂取タイミングに関する研究としては、1回の摂取で筋たんぱく質の合成量を評価した研究と、継続的な摂取により筋量や筋力の変化を評価した研究があります。人の身体は、外部からの刺激に適応し、反応が変わっていきます。つまり、短期間での変化が必ずしも中長期的な変化につながるわけではないのです。」(御堂先生)
「従って、中長期的な研究結果があるのであれば、そちらのほうをより重視すべきです。プロテインの摂取タイミングについて判断する場合も、中長期的な変化を表す筋量や筋力の変化を調べた研究結果のほうが重要です。そこで、ここでは筋量や筋力の変化を調べた結果を中心に説明します。」(御堂先生)
中長期的な変化にフォーカスして行われた研究の内容とは。
「最近の研究において、プロテインをサプリメントとして摂取した場合、摂取するタイミングと関係なく、筋量の増加が認められることが報告されました1)。この研究は、もっとも信頼性が高い研究とされる複数の研究結果を分析・統合したシステマティックレビューです。研究では、若年者、高齢者に関係なく、レジスタンス運動の直後とそれとは関係のない時間帯のプロテインの摂取において、筋量や筋力の増加に差が見られませんでした 1)。つまり、プロテインの摂取タイミングよりも、1日のたんぱく質摂取量のほうが重要であり、ゴールデンタイムの存在は怪しいということになります。」(御堂先生)
いつ飲んでも、筋量や筋力の増加に差は見られなかった。重要なのは飲むタイミングではなく、たんぱく質をきちんと摂取することにありそうですね。
「筋肉中のたんぱく質の合成速度は、レジスタンス運動直後のみ増加するのではなく、運動後24~48時間持続することが報告されています 2)。このことからも、ゴールデンタイムといったスポット的なタイミングではなく、1日を通じたたんぱく質摂取のほうがより重要と考えられます。」(御堂先生)
「ただし、ゴールデンタイムの存在が怪しいとしても、レジスタンス運動直後にプロテインを摂取することに、とくに問題はないと考えられます。」(御堂先生)
筋トレ直後にプロテインを飲んでも、もちろん問題はありません。ですが、急いでプロテインを作ったり、筋トレ直後に飲めるよう無理にセッティングする必要はなさそうです。
ゴールデンタイム神話はなぜ生まれた?
ゴールデンタイムのプロテイン摂取は必須ではない。では、なぜゴールデンタイムに飲むのがよいという定説が生まれたのでしょうか。
「初期の研究において、それを示唆する結果が得られたためだと思います。これを広めたのはサプリメントメーカーだと思いますが、特定の使用法を提案するほうがプロテインの必要性を強調しやすかったのでしょう。」(御堂先生)
サプリメントメーカーが引用した初期研究とは、どんな内容だったのでしょうか。
「多くのサプリメントメーカーが引用しているのは、2001年に報告されたEsmarck Bらの研究結果 3)です。たしかにこの研究では、レジスタンス運動の2時間後よりも直後にプロテイン(実際には10gたんぱく質、7g炭水化物、3g脂質)を摂取したほうが、12週間後の筋量や筋力が増加しました。」(御堂先生)
「しかし、この研究は、レジスタンス運動未経験の高齢者(74±1歳)を対象とした研究であり、被験者数も各群6~7名と少ないことから、限定された条件で偶然そのような結果が得られた可能性があります。とくに高齢者では、必要なたんぱく質摂取量が若年および中年者に比べて多いとされており 4)、たんぱく質に対する反応が若年者とは異なると考えられます。従って、この結果を一般化するには厳しいものがあると思います。」(御堂先生)
「一方、自転車こぎ運動直後のたんぱく質摂取(実際には10gたんぱく質、8g炭水化物、3g脂質)は、3時間後の摂取よりも体たんぱく質の合成を高めたとする報告があり、これも引用されることがあります 5)。しかし、この研究は、本来の目的である筋量や筋力を指標とした研究ではないこと、運動が有酸素運動であることなどの点で、やはり一般化するには無理があると考えられます。」(御堂先生)
1) Wirth J et al., J Nutr, 150, 1443-1460, 2020.
2) Phillips SM et al. Am J Physiol, 273 (1 Pt 1), E99-107, 1997.
3) Esmarck B et al., J Physiol, 535, 301-311, 2001.
4) 厚生労働省, 「日本人の食事摂取基準」(2020年版), https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
5) Levenhagen DK et al., Am J Physiol Endocrinol Metab, 280, E982-93, 2001.
※本記事は「プロテインは筋トレ後の「ゴールデンタイム」じゃないと効果ない?元ボディビルダーの大学教授が解説」の一部を再編集したものです。
プロフィール
御堂直樹(みどう・なおき)
東京医療保健大学教授。1965年生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒業。東北大学博士 (農学)、CSCS※。明治製菓(株)〔現 MeijiSeikaファルマ(株)〕、(株)東洋新薬、クノール食品(株)〔現 味の素食品(株)〕にて研究、商品開発、品質保証などに従事した後、2021年から現職。専門は食品学、食品加工学、食品機能学。競技として、アメリカンフットボール、ボディビルディングを経験。ボディビルディングでは、2002年日本社会人大会優勝。
<Edit:編集部>
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