【ラグビーW杯】日本の不運と誤算　2度の1点差も均衡崩されたイングランドの「世にも奇妙なトライ」

2023年09月19日 05:00

ラグビー

【ラグビーW杯フランス大会1次リーグD組日本12ー34イングランド（ 2023年9月17日ニース）】不運と誤算で金星ならず――。世界ランキング14位の日本代表は同6位の強豪イングランドにノートライに抑えられ、12―34で今大会初黒星を喫した。中盤まで接戦に持ち込んだが、相手に“ヘディング”アシストからトライを奪われ、リズムが狂った。先発選手の負傷交代、ラインアウトでは好機を演出できない2つの誤算もあった。11度目の対戦でも厚い壁にはね返されたが、18日にFB山中亮平（35＝神戸）の追加招集が決定。気持ちを切り替え、次戦は28日（日本時間29日午前4時）にサモア戦（トゥールーズ）に臨む。

　スローモーションのように一瞬、日本の選手の動きが止まった。12―13と1点差に詰め寄って迎えた後半16分だ。自陣22メートルライン付近で展開された相手SOフォードからのパスをスチュアートが後ろにはじき、さらにプロップのマーラーの頭に当たり、前方の空いたスペースに落ちた。それを見た桜の戦士はノックオンだと確信し「セルフジャッジでプレーを止めてしまった」（WTB松島）。だが、イングランドは冷静だった。走り込んできたフランカーのローズがこぼれ球をキャッチ。周りをうかがいながらインゴールに置き、頭を指さした。ビデオ判定の結果、手や腕に触れてないためノックオンは認められず。「ノックオンだと決めつけて面食らった。スイッチオフした」とSH流も悔やむ痛恨の失点。均衡は一気に崩れた。

　2つの誤算も歯車を狂わせた。1つはFWとバックスそれぞれのキープレーヤーが負傷交代したことだ。WTBマシレワがわずか前半7分で交代。W杯前の実戦5試合で4トライを挙げていた点取り屋が不在となるアクシデントで開始早々にプラン変更を強いられた。プロップ具も前半を終えて交代。屈強な相手スクラムに対抗していたFWの屋台骨が後半にいなかったことも痛かった。

　ラインアウトを起点に攻撃展開できなかったことも敗因だ。マイボールラインアウト成功率は相手の76・9％に対し、66・7％。これまでの合宿で練習してきた秘策のスペシャルプレーも仕掛けることができず。プロップ稲垣は「マイボールを獲得できないと、自分たちが用意してきたプレーが出せない」と厳しく受け止めた。

　2度も1点差に詰め寄り、会場の番狂わせの期待は高まった。だが、一瞬の隙を突かれ暗転。4トライも奪われ、地力の差を見せつけられた。近かったようで遠かった金星。だが、まだ1勝1敗。「下を向く時間はない。前を向く」とNo・8姫野主将は力強く言った。8強入りの道はまだ途絶えていない。(滝本　雄大)

　▽ノックオン　国際統括団体ワールドラグビー（WR）が発行する競技規則では、「プレーヤーがボールを落としボールが前方へ進む、または、プレーヤーが手、または、腕でボールを前方へ叩く、または、ボールがプレーヤーの手、または、腕に当たってボールが前方へ進み、そのプレーヤーがそのボールを捕りなおす前にボールが地面または他のプレーヤーに触れることをいう」と規定している。手や腕以外の場所に触れてボールが前にこぼれても、ノックオンにはならない。

　≪イングランド地元紙　大盛り上がり≫イングランドの地元紙が“ヘディングパス”からのトライについて取り上げた。デーリー・エクスプレスは「イングランドが異例のトライで日本に勝利」の見出しで掲載。デーリー・メールは「奇妙なトライ」、イブニング・スタンダード紙は「サッカーのようなマーラーのアシストだった」と報じた。マーラーは試合後、自身のSNSでサッカー界の至宝、C・ロナウドのヘディングと比較するような動画を投稿。デーリー・メールも「ロナウドのように！」と面白おかしく報じた。