【内田雅也の追球】「一年の計」と「半九」

2023年10月16日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「一年の計」と「半九」
生誕の地に建つ石碑と記念館にある安井息軒像 Photo By スポニチ
 【フェニックス・リーグ   阪神4ー2日本ハム ( 2023年10月15日    SOKKENスタジアム )】 江戸時代の儒学者、安井息軒(そっけん)は明治日本の近代化の素地をつくった「知の巨人」として知られる。森鴎外の小説『安井夫人』は息軒の妻・佐代が題材で、戦前の教科書には40件ほど採用されていた。
 宮崎市清武町の出身。オリックスが2015年からキャンプを張る宮崎市清武総合運動公園野球場は息軒の功績をたたえSOKKENスタジアムの愛称がついている。

 この日、阪神がみやざきフェニックス・リーグで日本ハム戦を行った。試合前、球場にほど近い旧居(生家)と記念館を訪ねた。開館の午前9時より15分前に着いたが、館長・川口眞弘が迎えてくれ、案内してもらった。学者、教育者、政治アドバイザーとしての功績を聞いた。昔、SOKKENはネーミングライツの企業名かと勘違いしていた不明を恥じた。

 有名な「三計の教え」がある。「一日の計は朝(あした)にあり 一年の計は春にあり 一生の計は少壮の時にあり」

 教えを胸に、試合を見た。逆転した6回裏の攻撃に原点の「春」を見た。先頭の近本光司は2ボール―2ストライクから低め変化球を続けて見極め四球で出た。それまで苦しんでいた左腕・根本悠楓のチェンジアップ、スライダーを3打席目にして見切っていた。

 今季、攻撃の大きな強みとなった「四球力」である。監督・岡田彰布がキャンプ中、選手たちに語りかけた言葉が発端だった。「追い込まれてもストライクゾーンは変わらんのやで」。この諭すような言葉で打者は無理な格好での早打ちを控え、2ストライク後も余裕のある選球、姿勢を保てるようになったのだ。

 無死一塁。近本は走り(盗塁)、中野拓夢は低め変化球を引っ張って右前打。一、三塁と好機を広げたのだった。同じようにカウント2―2から、低め変化球だった。

 岡田は「やっぱり、四球で出ると点入る気がするもんな」と満足そうだった。「一年の計」は「春」にあったのだ。

 ただ、息軒は「百里を行く者は九十里を半ばとす」と「半九」の精神もうたっている。日本一への道のりは今が「半ば」と気を引き締めたい。

 調整でこの2試合に参加した主力打者8人は全員に安打が出た。気温26度の夏日。ツクツクボウシが鳴くなか、立ち見も出た超満員(観衆発表2800人)のスタンドでSOKKENの教えを胸に刻んだ。 =敬称略= (編集委員)

おすすめテーマ

2023年10月16日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム