【コラム】金子達仁
記憶に残る ベルギーの強さと日本戦の死闘
2018年07月18日 06:00
サッカー
第2戦の相手はクロアチア。内容に関する記憶はゼロ。スーケルやボバン、プロシネツキがいたことは覚えているのだが――。
波乱と興奮に満ちたW杯ロシア大会も、いよいよフィナーレ。決勝戦に先立って行われた3位決定戦ではベルギーがイングランドを下し、初の3位獲得を決めた。
同国史上初の快挙となった試合は、むろん、ベルギーの人たちに大いなる喜びをもたらしたことだろう。だが、その試合内容や相手の顔ぶれが彼らの記憶に刻まれていくとは思えない。
記憶が時代を超越していくのは、簡単なことではない。3位決定戦という気の抜けたシチュエーションや、気迫はあったもののあまりにも単調だったイングランドのサッカーは、記憶の維持をより困難なものにするはずだ。第三者で、かつ日々衰えつつあるわたしの記憶力などはおそらくひとたまりもない。
だから、改めて決勝トーナメントの1回戦をベルギーと戦えたことの幸運を思う。
ジョホールバルで戦ったイランのGKアベドサデの名前がいまも忘れられないわたしは、きっと、クルトワの名前も忘れない。アジジやダエイの印象が薄れないように、デブルイネやフェライニ、ルカクの破壊力は忘れようがない。日本を破り、今大会の3位に輝いたチームは、同じくベスト4に進出した32年前のチームより、魅力的で特徴のあるチームだった。
少なくとも、イングランドよりは、はるかに。
ベルギーとイングランドは同じ1次リーグを戦った。両者による最終戦は、日本対ポーランド戦がなければ1次リーグ最悪になっていたかもしれない、無気力な試合だった。
つまり、日本の決勝トーナメント1回戦の相手は、イングランドになっていた可能性もあったのだ。
3位決定戦でベルギーに敗れたからといって、イングランドはベルギーより弱く、日本が勝てたチャンスもあった……とは思わない。むしろ、単調だけれども決定率の高いセットプレーにやられ、完敗していた可能性もある。
ただ、攻撃に変化や多様性をほとんど感じさせなかったイングランドが相手では、いくら日本が頑張ったとしても、多くの人を感動させるサッカーを展開するのは難しかった。サッカーの感動は、2チームによって紡がれるものだからだ。
優勝には届かなかったものの、今大会のベルギーはフランスやクロアチアにも負けない、魅力的なチームだった。そんなチームと死闘を演じることのできた喜びを、改めて思った。(金子達仁氏=スポーツライター)