侍世界一監督・栗山氏 一つの芽吹きが教えてくれた大切なこと 直筆でつづった日々感じた思い

2023年06月13日 05:00

野球

侍世界一監督・栗山氏 一つの芽吹きが教えてくれた大切なこと 直筆でつづった日々感じた思い
栗山英樹氏の直筆色紙
 3月のWBCで侍ジャパンを14年ぶり3度目の優勝に導き、5月末で退任した栗山英樹氏(62)が、スポニチ本紙に新連載「自然からのたより」をスタートさせた。日々の暮らしから感じ、気づいたものを、絵に描き、文字でつづる。四季の移り変わりの中で栗山氏の思いが一枚の色紙に詰まった、これまでにない異色の新連載(掲載は随時)。第1弾は、長い冬を越えて鉢から顔を出した紅葉の芽について。
 都内の自宅マンションには、ベランダにいくつか鉢がある。WBCの戦いを終えて帰ってきたら、そのうちの一つから新たな芽が出ていた。紅葉の芽だった。確か種を植えたのは昨年12月くらい。長い冬を耐えしのぎ、生まれてきた命だ。

 命が形になり、育っていく。それを見るのが好きだ。毎年、近くの公園などで種を拾ってきて鉢に植える。芽を出し、育って樹木になる。北海道栗山町の自宅に、そうして育ってくれた10年ものの木もある。昨年、鉢に種をまいたのは紅葉とイチョウ。芽吹いた紅葉は一つだけだった。

 鮮やかな緑で力強い芽を見て、やはりそうなんだと思った。

 窮まれば変ず
 変ずれば通ず
 通ずれば久し

 これは、古代中国の書「易経」にある言葉だ。行き詰まり、困った時に人には知恵が生まれ、変わろうとする。変われば道が開けて、それは長く続いていく。そういうことを言っている。「易経」は「時の書」ともいわれ、全ては自然から学び、自然が人の生きざまを教えてくれる。鉢の中に顔を出した紅葉の芽もまた大切なことを教えてくれる。

 この冬は、WBCであまり時間がなく、ベランダの鉢に水をあげたりとか、世話がほとんどできなかった。だから、今年は難しいかな、と思っていたところで、たくましく芽を出してくれた。厳しい環境に耐え、命が芽吹く。人も同じではないかなと思う。苦しいこと、つらいこと、それをじっと我慢した先に喜びが待っている。

 WBCでもそうだった。つらい状況、厳しい場面が本当にいっぱいあった。それをみんなで耐え抜いた先に世界一があった。人は苦しいことがあるから変わり、できないことがあるから進化する。苦しいことは、実は凄く大切なことなんだ。

 自然はやっぱり素晴らしい。たった一つの木の芽から、本当に大切なことを改めて学ばせてもらった。

 ▽易経 儒教の経書の中で特に重要といわれる「四書五経」の一つ。「易経」は最も古い書とされ、万物の真理が書かれている。「時の書」ともいわれ、論語の中で孔子が「五十にして易経を学び直せば、人生に間違いはなくなるだろう」としており、多くの偉人が座右の書にするほど。自然の摂理と人間の関係が古来の経験からまとめられている。

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