【内田雅也の追球】打倒・巨人の伝統と本懐 “球界の盟主”の姿はどこへ…

2023年09月22日 08:00

野球

【内田雅也の追球】打倒・巨人の伝統と本懐 “球界の盟主”の姿はどこへ…
<神・巨>6回 2死満塁 代打・大城(後方右端)に満塁弾を浴びた青柳(撮影・成瀬 徹) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神3―5巨人 ( 2023年9月21日    甲子園 )】 阪神球団創設時からの投手で監督も務めた若林忠志(1965年、57歳で他界)の長男・忠雄は「ジャイアンツに勝つところを見たいんだよ」と繰り返した。
 米カリフォルニア州在住。試合前、戦前戦後と保管していた父の遺品を甲子園歴史館に寄託。ナイターを観戦した。

 父の影響だろう。すでに「七色の魔球」と呼ばれていた名投手は発足準備を進めていたプロ野球に入る際、巨人や阪急を蹴って阪神を選んだ。有力選手を集めていた巨人への対抗心があった。

 「打倒巨人」の伝統である。忠雄は「まあ、そういうことになるのかなあ」と笑っていた。

 ただ、阪神が巨人を特別視する意識は年々、薄れてきているように感じる。球界の盟主に君臨していた巨人の姿はとうにない。「伝統の一戦」の価値も下がってはいないか。「打倒巨人」は、OBや年配のファンが昔を懐かしむ響きがする。

 そんな現状に、寂しさを覚えながら今季最後の巨人戦を見た。満塁弾はさすがに痛く、最後の2本塁打も及ばなかった。

 監督会見。阪神として歴代最多18勝をあげた今季の巨人戦について問われた岡田彰布は「まあ、巨人だからというわけじゃなく」と質問をそらした。「どこが相手でも勝ち越せたというのは大きいよ。星勘定せず、一戦一戦やってきた結果よ」

 少年時代、甲子園のスタンドでONコンビをやじっていた岡田でも控えめである。ただ、本音は巨人と争って優勝したいのではないだろうか。

 2リーグ制となり、阪神が優勝したのは62、64、85、2003、05年、そして今年と6度あるが、巨人はいずれも3位以下に沈んでいた。逆に巨人優勝・阪神2位はいくらもある。岡田も前回監督の08年、最大13ゲーム差を逆転された。苦汁をなめてきた歴史がある。

 南海は59年、巨人を破り日本一となった。国際日本文化研究センター所長・井上章一は『阪神タイガースの正体』(ちくま文庫)で<南海は御堂筋パレードで泉岳寺への凱旋(がいせん)めいた感動を味わった>とし<阪神ファンの忠臣蔵幻想は残存し続ける>と書いている。巨人と争っての優勝でこそ本懐を遂げるというわけだ。

 18年ぶりの見事な優勝ではあったが、巨人戦の歯ごたえのなさは寂しくもあった。=敬称略=(編集委員)

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