元選手ではなく…MLB球団でテクノロジーやデータに詳しいコーチたちが増えてきた背景

2024年03月05日 14:06

野球

元選手ではなく…MLB球団でテクノロジーやデータに詳しいコーチたちが増えてきた背景
MLBロゴ
 スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」がMLB球団のコーチや育成担当のスタッフに、元選手ではなく、テクノロジーやデータに詳しい人たちが増えてきた背景について特集している。
 19年のシーズン前にオリオールズがマイク・エライアスをGMに採用。エライアスはアストロズを手本に、タレント供給のパイプラインの再構築を目指し、スカウト部門、育成部門、アナリティック部門のスタッフを入れ替え、16カ月の間に65人を新たに採用した。

 115敗と最低の成績だったことに加え、ファームシステムランキングでも最下位だったからだ。

 オリオールズの選手育成部長マット・ブラッドは「選手を成長させられるインパクトのあるコーチが必要だった。選手はばかじゃない。コーチに能力がないとすぐに見抜いてしまう」と言う。

 ブラッド部長は21年夏、ミズーリ州セントルイス郊外にある「プレミア・ピッチング&パフォーマンス」という独立系のトレーニング施設とコンタクトを取った。大学チームのために選手の生体力学的な調査を行っており、創設者の一人に、22年春のキャンプで若手選手の身体の使い方を見てもらった。さらにその後も4人のスタッフをマイナーのコーチやピッチングコーディネイターとして採用している。

 今ではMLBのほぼ全球団が、こういった独立系の施設で働いていたテクノロジーとデータに精通した人材を採用している。

 かつてはMLB球団のコーチといえばほとんどが元選手だったのに、大きな変化だ。もっともそれがうまくいくケースもあれば、失敗するケースもある。大事なのはバランスだ。

 エライアスをGMは「プレー経験がある人もテクノロジーに詳しい人も両方トップに必要だし、存在価値がある。総合的にうまく機能するようにバランスを取らなければならない」と説明する。

 トレンドのきっかけとなったのはシアトル郊外の有名なトレーニング施設「ドライブライン」だ。創業者カイル・ボディが08年にハイテクラボをスタートさせた。投手はここに来ることで、球速がアップしたり、より効果的に変化球をデザインできるようになった。近年では、打者がバットスピードを上げられるようになった。

 こういった施設で選手を上手に指導し、信頼を得たスタッフたちが、メジャー球団に引き抜かれる。ヤンキースのマット・ブレイク投手コーチは同じく著名なトレーニング施設クレッシー・スポーツ・パフォーマンス出身。15年にガーディアンズのマイナーのピッチングコーディネイターになり、19年シーズン後にヤンキースの投手コーチに就任。22年に新たに3年契約を結んだ。

 一方でヤンキースは同じくデータに詳しいディロン・ローソン打撃コーチを昨季解雇、理由は選手が彼の言うことに耳を傾けなくなってしまったからだった。「メジャーのコーチで成功するにはプロチームの中で何が起きているかを理解し、謙虚であることが大事。テクノロジーやデータを実際の試合の中でどう生かせるのか?実戦の中で選手はどういった状態なのかを理解できないといけない」とブラッド育成部長。ボディは19年にレッズのマイナーのピッチングコーディネイターとして招へいされたが、2年でフロントのトップが入れ替わったために球団を去ることにした。「みんなが同じ考えでないとうまく行かない」と説明する。

 フィリーズも18年、当時のマット・クレンタックGMがドライブラインのスタッフを採用したが、元からいた球団のコーチたちと合わず、現場は手柄争いのようになって混乱。チームとして結束できず、結局ドライブラインのスタッフとの契約は更新されなかった。パイレーツも、選手が従来からのやり方と、新しいやり方が混在していることに困惑するだけで、機能しなかった。プロ球団には官僚組織的な部分もあるからだ。

 クレッシー・スポーツ・パフォーマンスを創設したエリック・クレッシーは今、ヤンキースで、選手の健康とパフォーマンスの管理に当たっているが、「オフシーズンとシーズン中は全く違う。トレーニング施設のコーチたちは、教えるのはオフで選手の身体づくりやスキルを上げることに専念できる。しかしながらメジャー球団のコーチになると、シーズンを戦いながらだし、教え方も変わるし、選手第一ではない時もある」と指摘する。

 摩擦もあるが、全体的に見ると、こういった新しいコーチたちがもたらすインパクトは大きい。ゆえにこの流れはこれからも続く。ボディも、レッズを辞めた後、多くの球団から声を掛けられ、レッドソックスで働くことにした。古い世代の選手には、テクノロジーやデータが好きではない人たちもいる。しかしながらこれからさらに増える若い世代は中学、高校時代からテクノロジーのお世話になっているし、使い方にも精通している。後戻りすることはないのである。

おすすめテーマ

2024年03月05日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム