旅・グルメ・健康
【さくらいよしえ きょうもセンベロ】転職のち天職に乾杯
2019年07月12日 12:00
社会
サラリーマンでにぎわう菊川の「立ち飲み しろ」は、金宮を使った焼酎ハイが250円。心ゆくまで飲める安心の一杯だ。
つまみは、目玉商品であるマグロ刺し身100円から、細やかな千切りキャベツ添えのブタロース味噌漬け焼き、しっとりとした色気を感じる鶏の胸肉のトリハムなど、小さなポーションに広がる夢広場。
「今日はスタッフが沖縄で買ってきた島ラッキョウの天ぷらもありますよ。塩を振りかけてお召し上がりください」と、物腰柔らかな店長の久美さん。
金宮焼酎にこだわる理由は、「だって、悪い焼酎だと、翌朝頭が割れちゃうでしょう」とありがたいことによく分かっていらっしゃる。ちなみに店を経営するオーナーの本業は塗装会社らしい。
「久美さんは、どんなご縁で店長に?」と尋ねると、ふと横顔が哀愁を帯びた。
「…フッ。今から12年前のことです。私、塗装会社の事務職で採用されたんです。簿記もソロバンもできますから。面接後、オーナーから“実はこんな店もやってるんだ”って連れてこられたのがここ。当時はスナックだったんです。へ~って思っていたら、その直後、スナックの女の子が全員辞めちゃって人がいないから、2週間だけ働いてくれないかって
OLになるつもりが、スナックの臨時ママに。
「ふと気づくと4年半が過ぎてました…」
人気が出てしまったのだろう。
「いいえ、暇でしたね」ときっぱり。そこへ、「久美さん、あの頃お店でめっちゃ飲んで、めっちゃ歌ってましたよねー!」と元気に証言するのは、スナックの元常連客。彼はなぜかここでバイト中だ。
「(お酒が)嫌いじゃないもので。へへ」と久美さん。
「僕は、スナックが好きで、新大橋通り沿いにある店に端から端まで行ったんですよ。その中で久美さんが一番若かったから、ついつい通うようになって
やがて立ち飲み屋を始めたいというオーナーの夢をかなえるべく、常連客も巻き込み、新店をレッツ旗揚げ。センベロ砂漠といわれる街のオアシス誕生となったのだった。
ある日の事務職面接から数奇な運命をたどった久美さん。干支(えと)も1周、今は3人の孫を持つおばあちゃんである。
◆立ち飲み しろ マグロの刺し身は100円。ほかにも店長・藤原久美さんのポリシーでもある「ひと手間かける」つまみは、いずれも安くておいしい。仕入れに合わせた日替わりの“黒板”を楽しみに訪れる常連客も。ホッピーなどの焼酎は「金宮」。東京都墨田区菊川3の7の11。(電)03(3631)5758。営業は午後4時半から11時半。日曜、祝日定休。
◇さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「きょうも、せんべろ」(イーストプレス)など。