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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】老舗の証“うまい店の方程式”看板に暖簾に「食堂」「うどん」「飲食店」
2019年09月20日 12:00
社会
「山城屋食堂」。暖簾(のれん)には「うどん山城屋」、路上看板には「飲食店山城屋」。経験上、店名のこうした小混乱は、長く続く飲食店の特徴で、ボク好みの店である可能性が高い。三角の路上看板が、とても可愛い。自転車バイク手荷物の一時預かり所も兼ねているのも面白い。
店に入ると、客はそれほど多くないのに「時間がかかりますけど、いいですか」と店のおばちゃんに、何度も念を押された。先を急ぐ旅ではない。ビールがあれば、待つのなんか何でもない。
コンクリート打ちっ放しの灰色の床。使い込まれた木のテーブル。昔懐かしい木の丸椅子。座面が何十年と客の尻に磨き上げられスベスベのピカピカだ。
午後3時前、表は太陽がまだまだ眩(まぶ)しい晴天。それに対して、店内はやや薄暗い。でも窓や入り口から入ってくる自然光の、なんと心地いいこと。この時間帯、この空間で、冷たい瓶ビールをコップに空けて飲むのが、マズイわけがない。おばちゃん、俺は料理なんて何時間でも待てるよ。
見ているとどうやら、店員はおばちゃん一人だ。一人で作って、一人で運んでいる。
冷蔵庫の上に、古い漫画雑誌が重なっている。時刻表が貼ってある。まだ石油ストーブが出ている。一枚だけ貼ってある色紙が「宇崎竜童」というところも、何とも言えずシブイ。
うどん各種と、めしと、いなり。きつねうどん350円。安い。そしてちゃんぽんと焼きそば。あとは親子丼など丼物数種。カツ丼とカレーライスはない。何にしようか。やはりちゃんぽんだろう。本場はお隣の長崎だが、佐賀でも食堂には、必ずと言っていいほどちゃんぽんがある。500円と安い。
それほど待つことなく出てきた。豚骨スープで、白菜、もやし、かまぼこ、ちくわなどと肉を炒めたものがのっている。驚いたのは、その肉が牛肉であることだ。面白い。
佐賀でも何軒かのちゃんぽんを食べたが、長崎のよりあっさりしている。そしてあまり魚介類が入っていない。でもボクは大好きだ。ここのも、見た目より軽くておいしかった。
先客の3人のおばあちゃんが楽しそうに世間話をしていたが、店主にお茶菓子を出されて、「よしえちゃん、なんにも食べないで長居してごめんね」と照れ笑いしていた。いいなぁ。旅情あふれる時間をありがとうございます。
レコードを、一切音を聴かず、そのジャケットの見た目だけで、購入するというジャケ買い。貧乏学生の頃輸入盤屋で鍛えました。それになぞらえた「ジャケ食い」。この5年間、勘は磨かれたと自負しながらも、まだまだ日本には想像もしなかったいい店があります。5年間、ご愛読ありがとうございました。
◇山城屋食堂 ちゃんぽん500円、かけうどん・そば300円。佐賀県唐津市紺屋町1695の1。JR筑肥線唐津駅徒歩1分。(電)0955(72)3869。営業時間は午前11時~午後7時。
◇久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。