【ラグビーW杯】日本代表SO・李承信の父がエール 亡き母の思い背負い…自分と仲間を「信」じて
2023年08月30日 09:00
ラグビー
「嫁さんもきっと喜んでくれていると思います。子供たちの母親が亡くなってから、濃い11年でした」
承信の母は2012年7月末、天国へ旅立った。乳がんだった。承信が小学校6年生の時。長い闘病生活も重なり、母と過ごせた時間はあまりに少なかった。「まだ母親に甘えたい時期でしたからね。承信は一番下の子なので、母親も一番気にかけていました。全力の愛情で接してくれていましたから」。心にあいた穴を埋めてくれたのは、4歳から始めたラグビーだった。
「心の支えがラグビー。寂しさを乗り越える原動力になったのもラグビー。3人の子供たちには戻る場所がありました」
承信の4つ上の長男・承記(スンギ)さん、2つ上の次男・スンヒョさんと育ち盛りだった3兄弟を育てる大変さは想像に難くない。東慶さんは、携帯電話で料理サイトなどを見ながら子供たちが好むトンカツやトンテキを作って食べさせた。建設業の仕事を抱えながら早朝5時半に車で学校へ送り届けたこともあった。もちろん、親族や日本人の仲間にも助けられた。この11年間、父親も必死の思いで3兄弟を育てあげた。
承信は韓国籍の在日3世になる。大阪朝鮮高級学校卒業後に進学した帝京大を2年で中退。より高みを目指してニュージーランド留学を志したが、コロナ禍で頓挫した。母のお墓の前で自問自答を繰り返す日々。救いの手を差し伸べてくれたのは当時の神戸製鋼だった。その神戸で頭角を現し、朝鮮高級学校出身者として初の日本代表入りを果たしたのは昨年。6月25日のウルグアイ戦で初キャップを獲得すると、7月2日のフランス戦で初先発。以後、代表に定着した。東慶さんは言う。
「両国の歴史をひもとけば、在日という立場は複雑です。ただ、ラグビーという競技はそういうものを超越し、いろんな人種が日本という国を代表してつながっている。自分の国のアイデンティティーをきちんと持っておかなければ、発する言葉も薄っぺらになる。日本を代表するため、自分のルーツもしっかり知っておかなければなりません。朝鮮学校へ通う子供たちにとって、承信が希望の光になってくれれば」
名前の「信」の文字には両親の深い愛が込められている。「信頼される、みんなから頼りにされる、そんな人間になってほしいという思いからです。母親が亡くなった後、皆さんの支援や応援があって今があります。プレーで恩返しをしないといけません」。承信の真っすぐな性格、一度決めたことをやり通す性格は母親譲りだという。自分と仲間を信じて――。父と母はそれだけを望んでいる。
《成長した姿を見てほしい》○…李はW杯前最後のテストマッチとなった26日のイタリア戦で先発したが、不完全燃焼に終わった。ゴールキックとPGで苦戦し、それぞれ1本ずつ失敗。前半で交代し「(7月29日の)トンガ戦からなかなか思い通りにいかない。練習でもそういう場面が凄く多い」と悩める胸中を明かした。日本をたつ前の11日に母親の墓参りに行き、飛躍を誓った。「お母さんが望んでいた舞台で自分がラグビーをする姿、成長した姿を見てほしい」。キックの修正は急務。本大会では精度の高さを取り戻したい。
◇李 承信(リ・スンシン)2001年(平13)1月13日生まれ、兵庫県出身の22歳。4歳から兵庫県ラグビースクールで競技を始める。大阪朝鮮高級学校卒業後は帝京大に進学も中退。高いステージを目指して20年9月30日にリーグワン神戸入り。代表歴はジュニアジャパン、U19日本代表。22年6月25日のウルグアイ戦で初キャップ。日本代表キャップ10。1メートル76、85キロ。SO。
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