名古屋ウィメンズで見せた鈴木亜由子の魂のマラソンが記憶に焼き付いて離れない
2024年03月17日 21:00
陸上
フォームもバラバラだった。研究と鍛錬を重ねて身につけた精密な技術をかなぐり捨てて、ただ前に速く進むことを選んだ走りだった。
鈴木亜由子には常に繊細な優等生のイメージがつきまとう。中学2年で全国中学校陸上選手権の800メートルと1500メートルを制し、中3では1500メートルを連覇した。
高校は愛知屈指の進学校で大学は旧帝国大学の名古屋大。日本郵政グループで粛々と競技生活を送っていた。
一方で、高校時代からトップアスリートになった今でも常にケガが彼女の成長に横槍を入れてきた。
25キロ付近で遅れ始めたとき、正直「あ~鈴木亜由子は終わったかな」と思った。どこか痛めてレースをやめるのでは…。
そんな無知な傍観者の無責任な想像を吹っ飛ばす、ただ前だけを見た魂の走りだった。
田中希実や大谷翔平のように天井を知らない才能の持ち主が常識を打ち破り続ける姿は痛快だ。
だが、鈴木亜由子のような優等生が自らリミッターをぶち壊して限界を超えていく姿を見るのは震えるほど感動的だ。
バンテリンドームの最後の直線に入る直前には転倒もした。
それでも飛ぶようにゴールを駆け抜けた。
1月の大阪国際女子マラソンで前田穂南(天満屋)が2時間18分59秒の日本最高記録を叩き出した。
パリ五輪出場の切符を手に入れるにはそれを超えなければいけない。残り1枚を狙う選手はとてつもないプレッシャーだっただろう。
1位でゴールした安藤友香(ワコール)が流したゴール後の涙は、そのプレッシャーがどれほど苛烈だったかの証明だ。
ただ、鈴木亜由子の目に一瞬だけ光った涙は、安藤や他の参加者とは違った種類に見えた。五輪出場権や目の前のレースの勝敗、自己記録の更新…。それとは違う何か「満足できるもの」を手にした勲章に見えた。
興奮が冷めない私は、記者としての恩師であり、半世紀の間、誰よりも温かく陸上を見守り続けるスポーツライターの満薗文博氏に聞いた。
「あんな壮絶なマラソンをやって、鈴木亜由子は再び走れるのですか?」
日本郵政グループの高橋昌彦監督とは有森裕子を指導していた頃からの付き合いである満薗は「彼女なら走れるね!人間稼業も」と断言した。
私にスポーツ報道は「人を書くこと」と教えてくれた満薗が、鈴木亜由子を評して言った。
「僕の出会ったアスリートの中でも、出色の“人”です」
それは私の知る限り、満薗にとっての最高の賛辞だった。
(専門委員)
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